早産・低出生体重で生まれた子どもたちの救命率は向上した。新生児集中治療室(NICU)を退院した子どもたちが成長し、スタッフとしてNICUに入職してくることも増えている。そんな姿に、新生児医療の意味を改めて教えてもらう気がする。
一方、命が救われたからこそ、新たな悩みに直面する子どもたちと家族もいる。ある家族が話してくれた言葉が忘れられない。「NICUは、海で溺れそうな子どもの命を救ってくれた大きな船のような存在として感謝している。しかし、退院後は、海図を持たないまま、子どもと家族だけで小舟に乗せられ、社会という大海へ送り出されたように感じた」。救命の先にある暮らしを、どう支えていくのか。この問いが心に残っている。
自分がNICUで働きはじめた頃は、脳性麻痺などの運動障害が大きな課題だった。医療の進歩とともに、見えてくる課題も必要な支援も変わってきた。医療的ケアの有無にかかわらず、街の中での暮らしに戸惑う子どもたちとその家族に心を寄せたい。
早産・低出生体重で生まれた子どもたちには、発育や呼吸機能の問題が続いたり、学習や行動の課題が成長後に明らかになったりすることがある。成人期の高血圧や慢性腎臓病のリスクも報告されている。フォローアップ外来では、心身の健康や発達、養育環境を総合的にとらえ、子どもと家族の困りごとを地域の支援者と共有しながら、生活を支えることをめざしてきた。本人の喜びや長所にも目を向け、悩みや課題を共有し、教育や就労、社会生活での生きづらさを減らしたい。
今、NICUにいる子どもたちも18年後には成人となる。既に成人診療の場にも、NICUで命を救われた人たちが増えている。出生時から小児期までの経過を成人診療に携わる医療者と共有し、本人が自分の健康を理解していくことも支える。そんな移行期医療のあり方を、共に考えたい。
分担研究者として参加した2023〜25年度こども家庭科学研究「低出生体重児の中長期的な心身の健康リスクの解明とフォローアップ・支援体制の構築に向けた研究」では、『低出生体重児の中長期的な心身の健康のための支援の手引き』を作成・公開した。地域の医療・保健・保育・福祉・教育に携わる方々が、家族から相談を受けた際に役立てて頂けたらと期待する。
2026年度からは、研究代表者として「低出生体重児の就学前・就学期における支援手法確立に向けた研究」に取り組んでいる。本人・家族を対象とした全国調査を準備・実施し、成長に伴う困りごとや、必要な支援につながるまでの課題を尋ね、家族向けのライフコース支援ガイドを作成する。本人と家族の視点を出発点に、各分野の関係者が低出生体重児の体の状態や発達、生活について共に理解し、支援につなげたい。
本人と家族の経験や知恵を、後輩の家族が使える海図にして手渡したい。迷ったり疲れたりしたときに、安心して立ち寄れる場所も地域の支援者とともに創りたい。
早産・低出生体重で生まれた子どもたちを特別視してほしいわけではない。一人ひとりの心身の特性に心を寄せ、小さく生まれた子どもたちと家族の生きづらさを減らすことができる街は、早産・病気・障害の有無にかかわらず、子どもも大人も暮らしやすい街になるような気がしている。NICUから社会という大海へ。その海図を、本人と家族、地域の医療・保健・保育・福祉・教育の関係者と共に創り、施設や職種を越えて子育て支援の質の向上をめざしたい。
豊島勝昭(神奈川県立こども医療センター新生児科部長)[新生児医療][NICU][移行期医療][家族支援]