赤痢アメーバ症はEntamoeba histolyticaによって引き起こされ,主に大腸や肝臓に病変を形成する原虫感染症である。臨床病態は無症候性持続感染から,アメーバ性大腸炎,血行播種によるアメーバ性肝膿瘍,さらには劇症型アメーバ赤痢まで多岐にわたる。国内の年間報告数は約500~1000件で推移しているが,かつての「途上国での衛生環境に起因する輸入感染症」という側面は大きく変化した。現在,国内感染例の約8割は性行為が原因と考えられ,渡航歴のない患者での発症例が主流となっている。有症状の赤痢アメーバ症は感染症法上の5類感染症であり,全数届出を要する。
▶診断のポイント
【病型】
アメーバ性大腸炎:回盲部を好発部位とし,粘血便,しぶり腹,下痢,右下腹部痛を呈する。軽症例では「長引く下痢」程度にとどまる一方,検診での便潜血陽性を契機に発見されることもある。
アメーバ性肝膿瘍:長引く発熱以外の症状に乏しい場合が多く,急速に激しい症状を呈する細菌性肝膿瘍と対照的である。病変が横隔膜に近接している場合は,咳嗽,右胸膜痛,右肩甲部への放散痛を認めることもある。
劇症型アメーバ赤痢: 腹腔内への穿孔に伴い,急性腹症として発症する。多くは右下腹部痛を訴えるため,急性虫垂炎との鑑別が重要である。汎発性腹膜炎を合併した場合は,ショックバイタルを呈することもある。
無症候性持続感染:感染していても症状が現れない状態であるが,糞便中に囊子(シスト)を排泄し,感染源となる。
【検査方法(保険適用検査のみ)】
糞便直接検鏡検査:新鮮な糞便を直接または生理食塩水で稀釈してスライドガラスに塗抹し,栄養体やシストを観察する。簡便かつ迅速であるが,検者の習熟度や経験に精度が大きく左右される。
糞便迅速抗原検査(イムノクロマト法):特異度はきわめて高く,陽性なら確定診断が可能であるが,シストを検出できないため,軽症・無症候例では感度が10%前後に低下する(陰性でも除外不可)。
赤痢アメーバ抗体検査(ELISA法):感染後2~3週間以上の腸管アメーバ症で感度80~90%,アメーバ性肝膿瘍・無症候性持続感染でそれぞれ感度90%以上を示す。
アメーバ性肝膿瘍疑い,または糞便検査陰性の腸管アメーバ症疑い時に有用である。治療後2~3年程度は抗体陽性が持続するため,偽陽性に注意が必要である。
病理組織検査:通常のヘマトキシリン・エオジン染色では,栄養体と好中球の判別が困難であるため,必ずPAS染色を追加依頼する。採取した組織検体にEntamoeba histolyticaが含まれていない可能性もあるため,感度は約50%である。
