先日、Web医事新報チャンネル「2040年日本の医療 クリニックの役割はこう変わる!」の収録を行った。筆者は主に医療DXやオンライン診療、生成AIを軸に、2040年に向けた診療所の役割について話をしたが、本稿ではその一部について紹介したい。
2040年に向けた最大の課題は、患者数の増加よりも、医療を支える担い手不足であると言われている。高齢者の増加はやがて頭打ちに向かう一方、現役世代は急減する。外来患者数も地域によっては既に減少局面に入っている。一方、在宅医療や医療・介護の複合的なニーズは高まっていく。質・アクセス・コストというトリレンマを解く鍵は、結局のところ、医師や看護師などの担い手一人ひとりの生産性をいかに高めるか、にあるだろう。
その切り札のひとつが、医療DXであり、生成AIであると筆者は考えている。診察記録や紹介状、主治医意見書といった文書作成を効率化する「書く」領域では、生成AIによる文書作成支援によって、診療情報提供書や退院時サマリなどの作成時間が4〜5割程度削減されたという事例も報告されている。将来的には、さらに時間を減らすことができるだろう。人手を大きく増やさずに機能を拡張することができるこの流れは、規模の小さい診療所のほうが恩恵が大きいと考える。また、「書く」ことと同様に重要なのが、「つながる」ことだろう。オンライン診療、医療・介護の連携ネットワーク、地域の医療情報連携基盤─こうした「つながり」が整ってこそ、生成AIも真価をより発揮する。
一方で、生成AIには「ハルシネーション」という誤情報の生成や、責任の所在といった懸念もある。生成AIは文章を生み出すことはできても、ルールに沿って手続きを正確に実行することについては課題が残る。生産性を本当に高めるには、法令などのルールを機械が解釈できる形にして手続きを自動化する「Rules as Code」の発想や、それをAIエージェントに担わせるという仕組みが必要になるだろう。さらに、その先には、「personal health record(PHR)」と連動した「パーソナルAI」が、地域包括ケアの新たな基盤になる可能性もある。この点については、2026年10月31日に行われる全国医療介護連携ネットワーク研究会の全国大会でも掘り下げていくテーマのひとつである。興味のある読者には、ぜひ参加頂ければと思う。
技術を導入するだけで診療所が生き残れるほど、単純な話ではない。診療所に求められるのは、「治し、支える医療」に、『経済財政運営と改革の基本方針2026』(骨太方針2026)が掲げる「攻めの予防医療」を重ねた姿だろう。外来・在宅・介護連携の結節点として、地域の付加価値を担う存在へと、その役割は移っていく。医療DXと生成AIは、その役割を小さな診療所でも果たすことができるようにするための手段である。2040年の医療を形づくるのは、それらを地域で使いこなす私たち自身なのではないだろうか。
土屋淳郎(医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)[医療DX][生成AI][診療所の役割]