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【識者の眼】「おたふくかぜワクチン定期接種化〜30年越しの宿題と臨床現場の役割」神谷 元

登録日: 2026.10.15 最終更新日: 2026.10.15

神谷 元 (三重大学大学院医学系研究科公衆衛生・産業医学・実地疫学分野教授)

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2027年度からのおたふくかぜワクチン定期接種化に向けた検討が進んでいる。これは単に「任意接種から公費による接種になる」という制度変更ではない。1993年にMMRワクチンの定期接種が中止されて以来、30年以上残されてきた日本の「ワクチン・ギャップ」を埋め、子どもの聴力と生活を社会全体で守る政策への転換につながるものである。公費で接種を受ける機会が全国で整い、予防接種法に基づく健康被害救済制度の対象となることで、接種機会が家庭の経済状況や居住地に左右されにくくなる意義は大きい。

おたふくかぜは、耳下腺が腫れて数日で治る「軽い病気」と思われがちである。しかし、無菌性髄膜炎、脳炎、精巣炎などを合併することがあり、難聴は多くが一側性で、改善は稀である。2015〜16年の国内流行時の全国調査では、少なくとも359人のムンプス難聴が確認された1)。特異的治療法は確立しておらず、発症してから聴力を取り戻すことは難しい。だからこそ、予防接種の意義は大きい。

わが国では、1989年にMMRワクチンが導入されたが、接種後の無菌性髄膜炎が問題となり、1993年に中止された。その後はおたふくかぜ単味ワクチンの任意接種が続き、費用負担や自治体助成の有無によって接種機会に差が生じ、2回接種も十分に定着しなかった。今回、海外で使用実績のあるRIT-4385株を含む新しいMMRワクチンが2026年5月に承認されたことが、定期接種化に向けた議論を前進させる大きな契機となった。

私が最も重要と考えるのは、過去のMMRワクチンと今回のMMRワクチンでは、ムンプスワクチン株が異なることを明確にした上で、自然感染による合併症と接種後の副反応の双方を数字で丁寧に説明することである。国内の調査では、既存のおたふくかぜワクチン接種後、8週間追跡できた4万4708人中、無菌性髄膜炎は6例(疑い2例を含む)で、頻度は10万接種当たり13.4であった2)。一方、国内のレセプトデータ解析では、おたふくかぜ1000例当たり、髄膜炎5.8例、難聴1.3例と推定されている。

定期接種化に際しては、1歳時と小学校就学前1年間の2回接種が基本的な案として検討されており、現在のMRワクチンと同じ時期である。臨床現場では、母子健康手帳で麻しん・風しん・おたふくかぜの接種歴を一体的に確認し、接種漏れをなくす運用が求められる。

また、「以前、耳下腺が腫れたから罹患済み」とするだけでは十分ではない。耳下腺腫脹のすべてがムンプスとは限らないため、既往歴だけで罹患済みと判断せず、診断根拠や記録を確認すべきである3)。既におたふくかぜ単味ワクチンを1回接種した児や、制度開始時に対象年齢の境界にいる児への扱い、MMRとMR+おたふくかぜ単味ワクチンの使いわけについては、今後示される実施要領を把握し、保護者に明確に伝える必要がある。特に、第1期の接種機会を逃した未接種児のキャッチアップは、取り残される世代をつくらないための重要な論点である。

定期接種化はゴールではなくスタートである。安定供給、接種率の把握、副反応疑い報告、ワクチンの効果と免疫持続の評価を継続しなければならない。予防接種に関わるすべての人が「おたふくかぜは防ぐべき病気」と明確に伝え、接種機会を逃さないことによって、30年越しの制度改正は初めて子どもの利益に結びつく。

【文献】

1) 守本倫子, 他:日耳鼻会報. 2018;121(9):1173-80.

2) 神谷 元, 他:日小児会誌. 2024;128(1):92-104.

3) Nakashita M, et al:Jpn J Infect Dis. 2026;79(1):23-8.

神谷 元(三重大学大学院医学系研究科公衆衛生・産業医学・実地疫学分野教授)[おたふくかぜ][MMRワクチン][定期接種]

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