トラウマとは何だろうか。約9割の人が、何らかのトラウマとなりうる出来事を体験している、という報告がある。暴力、虐待、ネグレクト、喪失、災害、戦争など、感情的に有害な体験の結果としてトラウマは生じる。トラウマ体験は、長期にわたって個人の人生に影響を及ぼしうるだけではなく、社会にも影響を与える可能性がある。たとえば、第二次世界大戦の影響が、子孫への虐待の連鎖を生み出し、いまも社会に影響を及ぼしているとも言われる。ここに生きる私たち一人ひとりが、その影響下にあるとも言える。
そのため、トラウマへの対応は、1つの機関だけで完結するものではなく、複数の機関によって行われる必要がある。組織や地域全体がトラウマをよく理解し、人々を支援することが大切である。こうした背景から、トラウマインフォームドアプローチ(TIA)は1990年代に米国で精神保健福祉の分野を中心に発展した。これは、トラウマの理解に基づいた支援の基本的な枠組みとして位置づけられている。
このアプローチは、「個人の問題」を見る視点から、「その人に何が起きたのか?」という視点への転換を促す。たとえば、子どもが学校で勉強に集中していない、急に怒り出してしまう、といった姿を大人が目にしたとき、その背景にトラウマに関連する出来事があるかもしれないと考える。組織や地域がそのような知識を得て理解し、それを実践することは、人々の助けになる。子どもをむやみに叱りつけることは、かえってその子どもを追い詰めてしまう。多くの研究からも、適切な支援と介入により、トラウマ体験を克服できることが示されている。しかしながら、大多数の人は、こうしたサービスや支援を受けることができていない。
「3つのE」:個々のトラウマは、出来事(event)や状況の組み合わせの結果として生じる。それは、身体的または感情的に有害であるか生命を脅かすものとして体験され(experience)、個人の機能や、精神的・身体的・社会的・感情的またはスピリチュアルな幸福に、長期的な影響(effect)を与える。
「4つのR」:TIAは、組織やシステムのすべてのレベルにおいて、すべての人がトラウマの基本を理解し、それが個人、家族、集団、組織、地域社会にどのような影響を与える可能性があるかを知ることを求める。すなわち、組織・システムは、トラウマの広範な影響を理解し(realize)、回復への可能な道筋を知る。さらに、クライアント、家族、職員、システムに関係する人たちに生じるトラウマの兆候や症状を認識し(recognize)、トラウマに関する知識を方針・手続き・実践に十分統合して対応し(respond)、積極的に再トラウマ化を予防する(resist re-traumatization)。
森川すいめい(NPO法人TENOHASI理事)[トラウマインフォームドアプローチ][TIA]