2026年8月、タダラフィル10mg製剤「シアリスⓇ」が、国内初のホスホジエステラーゼ5(PDE5)阻害薬による勃起不全(ED)治療薬のスイッチOTCとして、要指導医薬品で発売されました。購入には本人によるチェックシートへの回答と、薬剤師による対面での確認・情報提供が必要で、1回の購入は1箱までです。販売できるのは、所定の研修を受講し、テストに合格した薬剤師が在籍する対象店舗に限られます。
硝酸薬・一酸化窒素(NO)供与薬、可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬との併用、心血管系障害などにより性行為が不適当と考えられる場合、心筋梗塞発症後3カ月以内、脳梗塞・脳出血発症後6カ月以内、重度の肝障害などは販売対象外です。これらを確認することは適正販売の前提にすぎません。医師の診察を介さない状況で、何を聴き取り、いかに受診につなげるか。そこに薬剤師の専門性が問われます。
EDは治療対象である一方、背景疾患の徴候でもあります。「動脈径仮説」では、陰茎動脈は冠動脈より細いため、同程度の動脈硬化でも冠動脈疾患に先行して症状が現れうると考えられています1)。冠動脈疾患が確認された300例の検討では、EDのあった147例中99例(67%)でEDが冠動脈疾患に先行していて、その間隔は平均38.8カ月でした2)。糖尿病、高血圧、脂質異常症、睡眠時無呼吸症候群、うつ病、性腺機能低下症などの可能性も考慮すべきです3)。薬局で診断することはできませんが、発症時期、早朝勃起の有無、健診歴、血圧・血糖の指摘歴を確認することで、背景疾患を疑う手がかりになります。「販売できるか」だけではなく、「受診につなげるべきか」を判断する視点が重要です。
もう1つ、薬剤師が意識したいのが薬剤性EDです。性機能の問題は患者から申告しにくいため、相談内容が周囲に聞こえない環境を整えた上で、薬剤師から丁寧に尋ねる必要があります。抗うつ薬31試験、1万130例のメタ解析では、性機能障害の頻度は薬剤間で大きく異なり、一部の選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やベンラファキシンで70〜80%と報告されています4)。ただし、対象にはEDだけでなく、性欲、興奮、射精・オルガズムの障害も含まれます。ほかにも、サイアザイド系利尿薬、スピロノラクトン、5α還元酵素阻害薬などが関与することもあります3)。お薬手帳と聴き取りから服用薬の影響を検討し、自己中断を避けながら、必要に応じて減量や代替薬への変更を処方医に提案できる点は、薬剤師ならではの介入です。
ED治療では、生活習慣の見直しと基礎疾患の確認も重要です。受診歴・健診歴のない中年男性は内科へ、心血管リスクが疑われる場合は循環器内科へつなぎます。用法を確認した上で4〜8回服用しても十分な効果が得られない場合、市販薬には増量の選択肢がないため、医師への相談を勧めます。心因性が疑われる場合は、泌尿器科や性機能外来を基本としつつ、必要に応じて心療内科・精神科との連携を検討します。妊活中なら、男性不妊外来や生殖医療施設まで案内できることが理想です。
OTC化には、個人輸入品への依存を減らし、正規品へのアクセスを広げるという意義もあります。日本と、タイから個人輸入で入手したED治療薬70検体中28検体(40.0%)が偽造品だったとの調査もあります。しかし、薬局が単に「売る場所」になれば、診察が介在しない分、背景疾患を見逃しかねません。薬局が「受診の入口」として機能すれば、これまで医療につながっていなかった人が、EDをきっかけに生活習慣病や薬剤の影響に気づく機会になります。シアリスⓇのOTC化は、相談しにくい症状を医療につなぎ、患者のQOL向上に貢献する、薬剤師への新たな試金石になるとらえています。
【文献】
1) Montorsi P, et al:Am J Cardiol. 2005;96(12B):19M-23M.
2) Montorsi F, et al:Eur Urol. 2003;44(3):360-4.
3) 日本性機能学会, 他, 編:男性性機能障害診療ガイドライン2025. メディカルレビュー社, 2025, p34-46.
4) Serretti A, et al:J Clin Psychopharmacol. 2009;29(3):259-66.
船見正範(株式会社パワーファーマシー医療学術・薬事管理部、NPO法人くすりと地域医療を考える会・MEBiUS代表)[薬剤師][ED][スイッチOTC]