〔要旨〕日本専門医機構のサブスペシャルティ領域専門医の認定を受けるにあたり,「小児血液・がん専門医」は「小児がん専門医」に名称変更して申請を行うことになった。関連領域の専門医である「血液専門医」が既に機構のサブスペシャルティ領域専門医として認定されていたためである。今回の経緯を,機構が掲げる「国民が受診に際しわかりやすい」「国民だれもが,標準的で安心できる医療を受けることのできる」専門医制度,また,「小児のサブスペシャルティ領域専門医のあり方」の観点から考察する。
1 「小児血液・がん専門医」の廃止(名称変更)の経緯
日本専門医機構(以下,機構)が認定する専門医の基本領域のひとつである「小児科専門医」のサブスペシャルティ領域には,小児科のみを基盤とするものと,他領域と共通基盤を持つものがある。前者のうち,「小児循環器専門医」や「小児神経専門医」は既に機構の認定を受けている。一方,「小児血液・がん専門医」の認定は難航し,名称を「小児がん専門医」と変更し,研修内容や認定要件も改めた上,再度申請を行うことになった。これまで本専門医を管轄してきた日本小児血液・がん学会は,2025年5月にこの方針を表明し,これに先立って開催した会員向け説明会の質疑応答内容をホームページに公開している1)。
2018年4月から,機構は各専門学会に代わり,すべての専門医制度の認定・管轄を行うことになった。その機構が「小児血液・がん専門医」のサブスペシャルティ領域認定を見送った背景には,日本血液学会がそれまで管轄してきた「血液専門医」が,内科・小児科共通のサブスペシャルティとして,既に2022年に機構の認定を受けていたことが大きく関与している。
日本血液学会は,以前から,内科医のみならず小児科医にも会員としての門戸を開き,小児科医にも「血液専門医」を認定してきた。また,「小児血液」領域を専門とする小児科医も日本血液学会の学術集会などで血液疾患の最先端の基礎研究や臨床研究に触れ,知見を深め,刺激を受けてきた経緯がある。
機構と学会との間でどのようなやりとりがあったかは公開されていないが,機構は,「血液専門医」と「小児血液・がん専門医」という,同一領域における「二階建て部分」の重複を避ける判断をしたのである。
2 日本小児血液・がん学会と「小児血液・がん専門医」の設立の経緯
日本小児血液・がん学会は,2011年に日本小児血液学会と日本小児がん学会が合併して設立された,日本医学会および日本小児科学会の分科会のひとつである。小児科医だけでなく,小児外科医,病理医,放射線科診断・治療医,脳外科医,整形外科医など,小児がん診療に携わる多領域の専門家で構成されている。
本学会が認定・管轄してきた専門医には,「小児血液・がん専門医」のほか,「小児がん認定外科医」「小児がん指導医」がある。中でも「小児血液・がん専門医」は,小児の血液・腫瘍性疾患の診療を総合的にマネジメントする小児科医が,成人と異なる,小児特有の全身管理,薬剤投与や副作用対策,さらに成長期の治療に伴う副作用や晩期合併症への対策などについて特別の専門性を要することから,その技能を担保する制度として構築された。
両学会が統合された目的のひとつは,この専門医制度の構築であり,日本小児血液・がん学会は,その学会専門医制度委員会の規則に基づき「小児血液・がん専門医」ならびに各領域指導医,研修施設の認定を継続してきた2)。
3 小児の血液・がん疾患とそのケアの特殊性
上述の日本小児血液・がん学会の会員向け説明では,小児血液領域が成人を含む「血液専門医」に統合され,「小児血液・がん専門医」が「小児がん専門医」として機構に認定申請する理由として,小児神経専門医や小児循環器専門医などとは異なり,血液領域では「小児と成人で扱う疾患の重複が多いため」としている1)。
しかし,公開されている日本血液学会の2022年血液疾患症例登録データ3)を用い,成人(20歳以上)と小児(19歳以下)の白血病・リンパ腫などの頻度を比較すると,成人ではびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(diffuse large B-cell lymphoma:DLBCL)が56%と過半数を占め,骨髄異形成症候群(myelodysplastic syndromes:MDS)(12%),骨髄増殖性腫瘍(myeloproliferative neoplasms:MPN)(11%)が続いた。一方,小児ではBリンパ芽球性白血病/リンパ腫(B-lymphoblastic leukemia/lymphoma:B-ALL/LBL)(40%),急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)関連(24%),Tリンパ芽球性白血病/リンパ腫(T-lymphoblastic leukemia/lymphoma:T-ALL/LBL)(8%)の順であり,「疾患の重複が多い」とは言いがたい。
また,発癌の成因も,成人では加齢や環境要因による遺伝子異常の蓄積が主だが,小児では発生・成長過程の突然変異が主原因と考えられている4)。治療成績(治癒率あるいは無再発生存率)も,小児は概して成人より良好である5)。非腫瘍性血液疾患においても,小児特有の疾患や免疫不全症などがあり,生物学的背景や標的分子の観点からも,小児血液疾患は成人血液疾患とはむしろ非連続な疾患群と言って過言ではない。
わが国のがんの罹患数は,成人は年間約98万人であるのに対し,小児は約2500人と圧倒的に稀少である。がん種も,成人では肺・胃・大腸などの上皮性悪性腫瘍(癌)が大半を占めるのに対し,小児では脳腫瘍や胎児性腫瘍(芽腫),肉腫が主体であり,明らかに異なる疾患群である6)。
したがって,固形腫瘍を含め,「小児と成人で扱う疾患の重複が多い」という事実はなく,非腫瘍性血液疾患を含む小児血液疾患の領域も,むしろ小児がん(小児悪性固形腫瘍)と共通(重複)する治療体系であり,このような分野では特に専門的な知見と技量が不可欠である。
さらに,成人と異なり,成長・発達過程にある小児は生物学的・精神的に特殊であり,治療への反応や晩期合併症の影響も大きく異なる7)。救命率の向上に伴い,成長障害,内分泌障害,不妊など,治療後長期間を経て顕在化する課題が浮き彫りとなってきている。
そのため,生命予後が改善した小児の血液腫瘍・悪性固形腫瘍(小児がん)の各病型(リスク群)においても,晩期合併症の低減をめざして,新たな標準的治療の開発のための臨床研究が現在も続けられているのである。
4 子どもの「血液専門医」と大人の「血液専門医」
2024年末,京都で開催された第66回日本小児血液・がん学会学術集会の特別講演直後の質疑で,日本血液学会理事長は,「血液専門医は小児と成人にわけない」方針を示した。座長を務めた機構運営委員は,専門医取得要件として実診療経験は自領域のみでよいが,他領域の知識を有することが条件であると補足した。しかし,同学術集会に招聘されていた機構の理事長は,別セッション講演で「専門医制度は医師のためではなく,患者が安心して質の高い標準的治療を受けるための仕組みである」ことを強調し,同機構のホームページにも公表している8)。
専門医には知識だけでなく,実臨床で患者と苦楽を共にする経験が不可欠である。専門医は,臨床の現場で患者と真摯に向き合うことによって,患者から多くのことを学ぶからである。
患者の視点に立てば,このメッセージの意味は明白である。高齢者がMDSを発症した際,「血液専門医」の小児科医に主治医を託すだろうか。逆に,自らの子が白血病になった際,小児の治療経験がなく知識のみを有する内科医の「血液専門医」に治療を任せることがあるだろうか。
血液専門医には,実態として「小児対象」と「成人対象」の2種の専門医が存在すると言わざるをえない。実臨床上も,血液疾患に罹患した小児が成人の血液内科で治療を受けることはない。現行の統合された制度が,はたして「国民にわかりやすい専門医制度」と言えるのか,患者や家族の視点から改めて考え直す必要がある。
機構認定にあたり,日本血液学会が管轄していた専門医は「血液内科専門医」ではなく,「血液専門医」として継承されたが,日本血液学会のホームページの理事長挨拶には,「優秀な血液内科医を全国にあまねく育成すべく地域での血液内科医育成」と記述されている9)。
「子どもは小さな大人ではない」10)という小児科学の根本原則は,仮に疾患名が同じであっても,発育途上にある患児の診察・治療・フォローアップには特別の見識と専門性が求められることを示唆している。したがって,小児領域を専門とする医師は,単に関係学会の力関係や利害関係のためではなく,「子どもの最善の利益」のために,この専門性と独自性を強く主張すべきであったと言わざるをえない。