最近、高額療養費制度の負担上限額の引き上げ、長期収載品やOTC類似薬に係る保険給付の見直しなど、患者負担増の施策が相次いで進められてきたが、次なる見直しの対象として、高齢者の患者負担の引き上げが議論されている。
高齢者でも現役並みの所得がある場合には3割負担だが、それ以外の75歳以上は一般所得者等で1割負担、一定以上所得のある者で(2022年10月から引き上げられて)2割負担、65〜74歳は2割負担となっている。現役世代と比較して高齢者の患者負担割合が低く設定されているのは、高齢者には低所得者が多い一方で、年齢が上がるにつれて受療率が高まり、1人当たり医療費が大幅に増加することに配慮してのことである。患者負担の医療費に占める割合を見れば、高齢者のほうが低いものの、年齢階級別人口1人当たりの自己負担額で比較すると、金額で見ても、その収入に対する割合で見ても、高齢者のほうが負担は重くなっている。
したがって、年齢階級別に集団としてとらえた場合、高齢者に配慮を行うことには一定の合理性がある。しかし、個々の患者で見た場合、当然のことながら、現役世代であっても、低所得者で医療費の水準が高い患者は存在する。それでも、当該患者の窓口負担は3割である。患者を個人単位で比較すると、公平性が担保されているとは言いがたい。1人当たりの平均値で年齢階級別の集団を比べても、必ずしも適切な配慮とはならない。本来的に言えば、能力に応じた負担は保険料や税金に適用される考え方で、給付は必要性に応じて等しく行われるべきであり、そもそも患者負担を年齢によって区分する必然性はないのである。社会政策上、負担能力や医療費の多寡に配慮するとしても、わが国の制度上は高額療養費制度によって対応が可能である。
ただし、諸外国と比較すると、3割という患者負担割合はかなり高い水準にあるという事実にも留意する必要がある。仮に年齢にかかわらず定率負担をそろえるならば、2割負担などにするほうが適切だと考えられる。しかし、その場合には、現役世代などは3割負担から2割負担への引き下げとなり、給付費抑制をめざす政府の方針とは相容れないため、実現可能性はきわめて低いと言わざるをえない。他方で、以前であれば、定率負担が引き上げられても、高額療養費制度があるから安心だと言えたが、昨今の動きにみられるように、高額療養費制度の負担上限額も容易に引き上げられるとなれば、そうとは言い切れなくなる。その意味でも、今回の高額療養費制度の負担上限額の引き上げは、高齢者の患者負担の見直し以上に悪手であったと言える。
そのため、仮に高齢者の患者負担割合を見直す場合でも、いきなり3割で統一するということではなく、現役並み所得者や一定以上所得のある者の基準を見直したり、引き上げ対象を(65〜74歳への2割適用時のように)段階的に設定したりするなど、様々な工夫をするほうが現実的であろう。重要なことは、患者負担の引き上げが必要な受診を阻害せず、他の生活費も含めて家計への影響を過大にならないようにすることであり、十分な検討が必要である。高齢者に限らず、給付費を抑制するために患者負担へと費用を転嫁させるだけの政策は望ましくない。
村上正泰(山形大学大学院医学系研究科医療政策学講座教授)[高額療養費制度][患者負担割合][給付費抑制]