2026年の夏は災害が続きました。7月28日には熊本県で最大震度7の地震が発生し、厚生労働省の集計では県内の92医療機関が被災し、最大で40施設が断水の被害を報告しています。8月から9月にかけては各地で大雨が続き、河川の氾濫だけではなく、排水能力を超える雨による内水氾濫も相次ぎました。
「備えていたことしか、役には立たなかった」
東日本大震災を振り返って語った、当時の国土交通省東北地方整備局長で、のちに事務次官を務めた徳山日出男氏の言葉です。同局がまとめた『災害初動期指揮心得』にも、「過去の災害を研究し、考察し、訓練したことだけしか実際の役には立ちませんでした」という教訓が記されています。
医療機関や介護事業所の業務継続計画(BCP)の整備は、制度として定着してきているように思います。2021年度の介護報酬改定で、介護事業所では感染症や自然災害に備えたBCPの策定、研修・訓練などが義務づけられ、2024年度からは義務化されました。医療機関でも2026年度の診療報酬改定で、機能強化加算の届出医療機関や在宅療養支援診療所・病院などの施設基準に、BCPの策定や定期的な見直しが盛り込まれています。
問題は、その計画が実効的なものになっているかどうかです。BCPは「近隣の活断層で震度7の地震が起き、建物が損壊し、ライフラインが断たれる」といった、想定最大規模の災害を前提につくられることが多いのではないでしょうか。一方で、現実で頻度が高いのは、壊滅的ではないけれども通常業務に支障が出る、という種類の出来事です。震度4の地震で建物に被害はないが、エレベーターが止まって給食を病棟に上げられない。大雪が降り、電気も水道も無事だが、職員が出勤できない。設備トラブルで停電が数時間続く中で、診療をどこまで続けるべきか。
正直に申し上げれば、当院もこうした場面のたびに右往左往しているというのが実態です。そのつど現場が知恵を出して乗り切るのですが、乗り切ってしまうと、そこで終わってしまう。けれども考えてみれば、こうした小さな支障は、裏を返せば年に何度も訪れる実地の機会でもあります。そのときこそBCPを開いて、書いてある通りに動いてみる。トラブルが年に何度かの実地訓練に変わります。しかも演習ではなく本番ですから、計画のどこに課題があるのか、否応なく明らかになるはずです。
そこで身につくものの多くは、災害の規模やモードによらないように思います。誰が対応の判断をするのか。情報をどこに集めるのか。何を止め、何を続けるのか。代替手段にどう切り替えるのか。この型が組織に定着していれば、想定していなかった事態が起きても適切な対応ができるようになり、結果として大災害への備えになります。
特に、急性期病院には、災害時に被災者を受け入れる役割も期待されます。しかし、院内の患者への対応がままならない状態では、外から患者を新たに迎え入れることはできません。地域への貢献は、自院の機能が保たれていて初めて成り立ちます。
備えていたことしか、役には立たない。ならば、備えたことを試す回数を増やすほかありません。まずは足元から始めていきたいと思います。
藤田哲朗(医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長、医療経営士1級)[業務継続計画][BCP][実地訓練]