妊娠中に自殺した女性は、2022〜25年の4年間で少なくとも61人にのぼることが、一般社団法人・いのち支える自殺対策推進センターと日本産婦人科医会の調査で明らかとなりました。
2015〜16年の2年間を対象とした全国調査では、妊娠中から産後1年未満に死亡した女性のうち、自殺は102人でした。その内訳は「妊娠中3人、出産後92人、死産後7人」で、当時の問題の焦点は、主に産後うつや育児不安などを背景とした「産後の自死」にありました。妊産婦の死亡原因として自殺が最多である、という事実が大きな衝撃を与え、産後のメンタルヘルス対策の必要性が広く認識されるきっかけとなりました。
当時の調査と今回の調査は、対象や把握方法が異なるため単純な比較はできません。しかし、妊娠中の自殺件数を年間平均にすると、2015~16年の約1.5人/年から、2022~25年には約15人/年へと大きく増えています。さらに、近年は出生数そのものが大きく減少していることを考えると、人数だけではなく、出生数当たりの自殺死亡率にも目を向ける必要があります。
妊娠中に自殺した61人のうち、約半数の31人に配偶者がおらず、原因・動機として交際問題が多く挙げられています。妊娠が判明したら男性が音信不通になる、妊娠しても男性が認知しないなど、様々なケースがあります。性加害の場合を除いて、本来、妊娠の責任は男女双方にあるはずです。しかし、現実には、身体的変化や妊娠に伴うリスク、生活への影響を背負うのは女性です。男性は逃れることができますが、女性は物理的に逃れることができません。予期せぬ妊娠やパートナーとの関係破綻、経済的不安が重なったとき、孤立無援となった女性は自分1人で抱え込み、「逃げ場がない」という極限状態へ追い詰められます。
内密出産などの取り組みもありますが、何より必要なのは「妊娠中に困ったら、ここに行けば必ず助かる」と誰もが直感できる、ワンストップの受け入れ体制です。
単なる行政窓口での傾聴やアドバイスにとどまらず、妊娠週数に応じた選択肢の提示、妊娠・出産に関する費用や当座の経済的サポートなど、実質的な支援の提供が重要です。妊婦が孤立を深める前に福祉と行政が介入することで救える命があります。それこそが福祉であり、行政の役割ではないでしょうか。
なお、今回の調査では、産後1年以内の自殺は149人で、そのうち産後3カ月以降が76%にのぼりました。妊娠中は交際問題が目立つ一方、産後は子育ての悩みなど家庭問題が多く、妊娠中と産後では自殺の背景にも違いがあります。子育ての悩みを抱える人への支援は充実してきていますが、妊婦という、本当にサポートが必要な人に支援が届く体制が、なお求められています。
稲葉可奈子(産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)[産婦人科][妊婦の自殺][メンタルヘルス]