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【識者の眼】「『間違えました』を拒む審査報告書の奇怪な文章」小野俊介

登録日: 2026.09.18 最終更新日: 2026.09.18

小野俊介 (東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学准教授)

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再生医療等製品ハートシート(心筋シート)は、2015年に条件および期限付承認(いわゆる「仮承認」)された。仮承認後さらに臨床の結果を収集したが、残念ながら「本承認」には至らなかった(2024年)。

当局の2024年の審査報告書の結論部分には、次の趣旨の文章がある。

有効性が推定されるとした仮承認時の判断は否定されないものの、仮承認後に実施された臨床研究等の検討結果からは、本品の有効性は示されていない”

「私たちは悪くない」と言いたいらしいことはわかるし、訴訟対策としては有用かもしれぬ。が、この文章、突っ込みどころが多すぎて、そもそも自己弁護になっているのかが疑わしい。

まず、何が「否定されない」のかがわからない。「薬が効く」という命題? 「効くと推定される」という命題(モダリティの問題)? 有効性推定の「判断」の妥当性? それって何だ? 「明日は雨が降る」と推定して予報を外した気象予報士が、「判断は間違っていなかった」と開き直ることは、フツーはない。「判断は否定されない」が単に「お役所の手続きはきちんとふまえた」を意味するだけだとしたら、情けない。

しかも、主語がないから、「仮承認時の判断」をくだしたのが誰か、また、その判断を否定するのが誰かもわからない。もし両者が同一で、上の文が「私は私の判断を否定しない」という宣言だとしたら、ずいぶんな面の皮の厚さである。

恐ろしいことに、今の医薬品規制には「薬の有効性」の明確な定義がない。RCTの実施という認識論的な手続きとリンクしているだけ。定義が明確でないのに、それを「推定」してるって、一体何を「推定」してるのだろう。考えると相当に恐ろしい。が、当事者はむしろ気楽である。何を「推定」してるのか誰1人わからないのだから、肯定するも否定するも雰囲気次第。街角の占い師の予言が決して外れないのと同じ理屈である。

かつて米国国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)のトップだったファウチ氏は、HIVワクチン研究開発の当時の試みの失敗に「We were wrong」とはっきり言った。そう言ったからといって、氏を研究者・行政官として無能・無責任だとは誰も思うまい。むしろ逆である。

察するに、日本の規制当局の方々も本当は「我々の当時の判断は誤っていたかも」と堂々と言いたいのではないかと思う。国民の健康に重大な責任を負い、また、かつての薬害の当事者でもある行政担当者に、そのような率直さが許されなければ、それが次の災厄(薬害)をまねくことになる。

そのための第一歩として、まずは、否定も肯定もできぬ奇怪な意味不明文を書くことをやめよう。放置せず、治療(批判)しよう。「私は間違えない」の無謬性はビョーキなのだから。

注 医薬局医療機器審査管理課:ハートシート審議結果報告書(令和6年7月24日)

小野俊介(東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学准教授)[審査報告書][有効性規制当局

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