少し前に、SNSで船を漕ぐショート動画が大流行したのを覚えていらっしゃいますか。インドネシア・リアウ州の伝統的なボートレース「パチュ・ジャルール」で、船首に立って踊る少年の動画に、サカナクションの楽曲「夜の踊り子」を合わせた動画が話題となり、それを模倣した投稿が一気に広がりました。医療機関のアカウントでも、職員が並んで船を漕ぎ、先頭で踊る動画をいくつも見かけました。
このように、一定の楽曲や動作、フレーズなどが型となり、模倣されながら急速に広がっていくコンテンツを「ミーム」と呼びます。SNSを利用している方であれば、誰もが一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
SNSでは、流行に乗ることで再生数は伸びやすくなります。タイミング次第では、通常投稿とは比較にならない拡散力を発揮することもあります。アカウントの目的が「認知拡大」であれば、まだ自施設を知らない方々の目に触れる貴重な機会になるでしょう。
一方で、流行を求めて見に来た人は、流行が終われば去るのも早い、と感じています。だからこそ、当院はあえてミームを追いかけません。ミームでよく見かけるダンス動画も、基本的にはやりません。
理由は簡単です。当院がSNSで重視している目的のひとつが「採用」だからです。
ダンス動画に対する受け取り方は、決して好意的なものばかりではありません。動画を見た求職者に、「ここに入職したら、自分もこれをやらされるのだろうか」という不安を与えてしまうことになれば、再生数は伸びても、採用には逆効果ということもありえます。
かつてプロ野球チームのダンスが流行した際、院長や看護部長といった病院幹部がダンス動画に参加している投稿を目にしました。しかし、応募者が本当に見たいのは「踊る幹部の姿」なのでしょうか。そこに、強い違和感を抱かざるをえませんでした。
医療機関のSNSでは、再生数を追うこと以上に「見た人にどう感じてもらうか」を優先すべきです。採用につなげたいのであれば、親しみやすさだけでなく、「ここで働く自分を想像できるか」「安心して入職できそうか」という受け取り方まで考える必要があります。
当院がダンス動画をやらないのは、流行に乗ることそのものを否定しているからではありません。「採用という目的に合致しているか」「現場に不必要な負担をかけていないか」「当院で働く人の人柄や職場の空気が正しく伝わるか」という3点を慎重に検討した結果です。
もちろん、現場の職員から「やってみたい」という声が自発的に上がり、それが職場の雰囲気を伝える上で無理のないものであれば、話は別です。広報が再生数を狙って現場を動かすのではなく、現場の前向きな気持ちが先行しているか。そこは大切にしたいと考えています。
医療機関のSNSは、ただ流行を追えばよい、というものではありません。自院の目的に合っているか、誰にどう受け取られるか、そして職員に無理を強いていないか。その判断があって初めて、SNSは機能するものだと考えています。
町田詩織(湘南藤沢徳洲会病院マーケティング課主任)[SNS][ミーム][認知拡大][職場の雰囲気]