腹痛は日常診療で頻度の高い主訴である。このうち,迅速な診断と緊急手術を含む治療判断を要する病態を急性腹症と呼ぶ。本稿ではその鑑別と初期対応を述べる。
▶病歴聴取のポイント
急性腹症をきたす疾患の大部分(急性虫垂炎など)は急性発症であるが,中でも突然発症(sudden onset)の病歴は出血,虚血,解離などの血管疾患,(消化管などの)穿孔/(消化管,卵巣などの)捻転などの発症機転を疑わせる。他にも,これまでにない重度の痛み,持続痛,発症から短時間で受診,などの病歴はred flagと言える。このため,部位や痛みの移動,放散だけでなく,最大強度までの時間経過も重要である。随伴症状として嘔吐,下痢,血便は消化管疾患を示唆するが,特に一時的な嘔吐や下痢はあらゆる急性腹症で出現しうるため,鑑別を狭めないほうが安全である。背景疾患・薬剤歴・生活歴では最終月経・妊娠可能性を確認し,産婦人科疾患の可能性を評価する。手術歴,抗凝固薬,ステロイド,維持透析,糖尿病,心房細動の有無を確認し,各疾患や薬剤による合併症も想起する。
▶バイタルサイン・身体診察のポイント
安静時の新規バイタルサイン異常を伴う腹痛はすべてred flagとして扱う。血圧低下がなくても冷汗や末梢冷感,頻脈を伴う場合は,交感神経刺激をきたす重症病態を考慮する。視診では腹部膨満,手術痕,皮膚病変を観察し,腸閉塞の鑑別では腸蠕動音を聴取する。触診では圧痛部位を確認,同定し,腹膜刺激徴候の有無も評価する。ただし,自発痛部位に拍動性腫瘤がある場合は,強い圧迫は控えて画像検査を優先する。腹部所見と乖離した強い自発痛では,血管疾患を想起する。
腹部の所見が乏しい場合は,胸部,背部,鼠径部,外陰部などの周辺部診察を忘れずに行う。バイタルサインの安定した強い腹痛/背部痛に肋骨脊柱角の叩打痛を伴えば尿管結石症が鑑別の上位となるが,特に初発患者では身体所見のみでの判断は危険である。胆道系疾患,脾臓や腎臓の動脈解離/閉塞でも類似した症状をきたす。除外診断的だが,脊椎/脊髄疾患も腹痛の原因となる。
