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【識者の眼】「オープンサイエンスを巡って⑭─『研究者よ、目を覚ませ!』。君らは商業出版社の手中にある」船守美穂

登録日: 2026.09.11 最終更新日: 2026.09.11

船守美穂 (国立情報学研究所情報社会相関研究系准教授、鹿児島大学附属図書館オープンサイエンス研究開発部門特任教授〔クロアポ〕)

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本連載ではこれまで、欧米における商業出版社を相手に、学術雑誌と論文のオープンアクセス化をめぐって続けられてきた戦いを紹介した。この戦いは、既に4半世紀以上に及んでいる。

なぜ、ここまでしつこく戦っているのかと言えば、欧米の商業出版社は、アカデミアが生み出した論文を囲い込み、高い収益を上げているからである。学術雑誌の購読料は、インフレ率を上回って上昇し続けてきた。さらに、世界の大手商業出版社の40%前後にも上る利益率の高さもたびたび問題にされてきた。「そんなに儲けているのなら、学術雑誌の購読料や論文掲載料(APC)をもう少し安価にしてくれてもよいではないか」というのが、アカデミア、特に学術雑誌の調達を担う大学図書館の主張である。しかし、商業出版社側は、大学が負担できなければ国が研究力を維持するために補助等を出すだろうと考え、購読料やAPCを引き上げてきた。

商業学術出版は、本当に美味しい商売である。査読と出版を担うプラットフォームを用意しておけば、「論文」という名の良質な原稿がどんどん舞い込んでくる。しかも、出版物の質の保証は、研究者の無償の労働である「査読」を通して、独りでになされていく。収益も研究者の背後にある大学や国に支えられ、安定どころか、拡大し続けることができる。

このような美味しい商売が成り立つのは、研究者がどうしても自分の論文を「権威誌」に掲載したい理由があるからである。Nature誌やCell誌、Lancet誌などに論文が掲載されれば、自分の研究が評価された、という意味を持つ。それ以上に、任期つきの大学研究職が当たり前となった現在では、研究者としてのキャリアは、学術雑誌への論文掲載にかかっている。そのようなことがあるため、研究者は、学術雑誌の購読料やAPCが不当に高いとわかっていても、有力誌への投稿をやめようとしない。無名の雑誌へも、業績がなければ職の続かない研究者が、お金を払ってでも論文を投稿する。このような雑誌はハゲタカ雑誌と呼ばれる。

しかし、研究者らが見逃しているのは、近年、「学術雑誌の権威性」の指標として用いられるようになったインパクトファクター(IF)が、デジタル出版のプラットフォームの出現により自動算出可能になったという事実であり、つまるところ、昨今の研究評価が、同出版プラットフォームを担う商業出版社の手中にあるという現実である。

学術雑誌が印刷体であった時代には、その権威性は確かに「人々の価値観」として存在した。しかし、学術雑誌がインターネット上の出版プラットフォームから提供されるようになってからは、ある学術雑誌に掲載された論文が平均的に何回引用されているかを示すIFが「学術雑誌の権威性」を測る指標として、用いられるようになっている。これは、個々の論文や研究者の価値につながると考えられていた従来の「学術雑誌の権威性」と等価ではない。実際、研究評価において学術雑誌のIFを個々の論文や研究者の評価の代用にすべきではないという考え方も示されている〔研究評価に関するサンフランシスコ宣言(DORA)〕。

近年、研究者の多くが、出版プラットフォーム上で示されるIFや被引用数を鵜呑みにし、一喜一憂している。しかし、これはとても危険なことである。これらの指標は、研究の価値の一面しか表していない。

また、出版社が自社の出版物を、競争力を示すための重要な位置づけのための道具としてIFを編みだし、出版プラットフォームに表示することになったという背景をふまえると、研究者は知らず知らずのうちに、商業出版社がつくり上げた仕組みの中に絡め取られ、学術雑誌の高騰や研究職の獲得競争から逃れることができなくなっているということに気づく。

「研究者よ、目を覚ませ!」。君らは完全に商業出版社の手中にある。研究評価指標や権威誌を拝んでも、それだけでは優れた研究成果にも、人間らしい研究生活にもつながらない。今一度、何を求めて研究者になりたかったのかということを考え、アカデミアのあるべき姿を取り戻すべきである。

船守美穂(国立情報学研究所情報社会相関研究系准教授、鹿児島大学附属図書館オープンサイエンス研究開発部門特任教授〔クロアポ〕)[学術雑誌の高騰][研究評価指標商業出版社

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