古文や漢文が外国語以上に毛嫌いされている学校教育の中でも、夏目漱石、森 鴎外といった明治の文豪をはじめ、明治、大正、昭和の小説家たちの作品はいまだに読み続けられています。特に近年、森 鴎外の『舞姫』は、その主人公の行動のクズさ加減から、生徒・学生に批判的に取り上げられることがあるようです。周知のように森 鴎外は生前、自著が発売禁止(発禁)処分を受けた人でもあり、世間一般や読者からの批判も当時からめずらしいものではありませんでした。むしろ陸軍軍医総監という高位にありながら、平然と発禁処分を受けるという点で、その胸中はともかく、今の時代に論じるに相応しい小説家なのかもしれません。
森 鴎外は幕末生まれで、明治時代初期、医制が複雑に変遷していく中で東京医学校(現在の東京大学医学部)を卒業し、医師となった後に軍医となりました。当時、軍医は医師資格を持つ者が陸海軍に採用されてなるもので、軍医としての教育は別に受けていたようです。その仕組みは敗戦まで基本的に同じで、医学部の同窓会記録を調べると、第二次世界大戦で戦傷死・戦病死した医師の多いことに驚きます。
現在の自衛隊では、防衛医科大学校で自衛隊医官を養成していますから、これは大きな制度変更になります。もちろん、一般の医師が自衛隊医官に採用される経路も残されています。
これからの日本が国外に派兵し、あるいは近隣国から攻撃を受ける事態になれば、軍医の需要は急増するでしょう。その際には、主に外科医が“志願”という形で、事実上動員されることになるでしょう。敗戦前と同様に、外傷外科の訓練は軍医となってから行われることになるでしょうが、その制度は今のところ明確ではありません。
なお、軍医の仕事を兵士の治療だけと考えることはできません。戦時には軍の医療要員が傷病兵の治療にあたりますが、国際人道法上、傷病者は軍人・民間人を問わず保護され、必要な医療を受ける対象となります。一方、民間人の救護には民間防衛(civil defence)などの仕組みも関わります。今の日本で言うなら、災害時の医療を担う災害派遣医療チーム(DMAT)などが一部これに近いでしょうか。民間防衛には、軍とは別の標章があります。オレンジ色の地に青い正三角形を配置したもので、これが「青い三角形」です。こちらの普及も急がれます。
本来、国際人道法によって民間人への攻撃は禁じられているはずですが、現在でも意図的に学校や劇場、医療機関といった非軍事施設を狙った攻撃が散見されています。やれば有効だとわかっているのですから、今後もそれは続くでしょう。
外科医が戦場に向かえば、都市部では外科医が払底することになります。爆撃を受けた都市部で診療にあたるのは、外傷外科の大量速成訓練を受けた内科系の医師たちになるでしょう。
「戦線から遠のくと、楽観主義が現実に取って代わる。そして最高意思決定の段階では、現実なるものはしばしば存在しない。戦争に負けているときは特にそうだ」後藤喜一(『機動警察パトレイバー 2 the Movie』)
中村利仁(社会医療法人慈恵会聖ヶ丘病院内科)[軍医][外傷外科][青い三角形]