福祉医療機構が2026年7月に公表したレポートによると、2025年度の病院の定員1人当たり建設費は約2944万円で、2010年度の調査開始以降、最高額を記録しました。400床の病院の建て替えに単純に当てはめると約117億円になります。2015年度のデータで同じ計算をすると約63億円で、わずか10年で2倍近くになったことになります。
建設費の急激な上昇は、計画そのものの存続に影響します。順天堂大学が埼玉県浦和美園地区で進めていた800床の病院整備計画では、2015年の当初計画で834億円と見込まれていた総事業費が、資材価格の高騰と人手不足により2186億円と、実に2.6倍に達することが判明し、2024年11月に中止が発表されました。
現在は、そこに「金利」という新しい要素も加わっています。2016〜24年まで、日本はマイナス金利政策の下にあり、利息負担はごくわずかで済んでいました。2026年6月には日本銀行は政策金利を1.0%へ引き上げ、福祉医療機構の病院新築資金の貸付利率も、8月の改定で2.600%(償還10年以内の場合)となっています。
借入1億円を10年元金均等返済で返済する場合、金利が1ポイント(1%分)上昇すると、利息は総額で約500万円増加します。冒頭の400床の建て替えの例では、100億円を借入で賄うとすれば、1ポイントにつき10年間で約5億円、借入残高が最も多い初年度には約9500万円の追加利払いが発生することになります。一般病院の70%超が赤字という現状で、これを吸収するのは容易ではありません。
金利がほぼゼロであれば、時間は味方でした。時間をかけても着実に稼働率を上げ、診療報酬上の収益を積み上げていくことができました。しかし、金利のある世界では、返済に時間をかければかけるほど利息負担が重くのしかかります。
投資判断の場面では、「この機器を導入すれば、この点数が算定できる」と目先の売上に引っ張られることがあります。よく調べてみると、算定できる点数が消耗品費をようやく賄う程度で、減価償却費も金利負担も考慮されていないという構図は、決してめずらしくはありません。「その投資は、減価償却費と金利を賄った上で、なお利益を残すのか」「投資資金の回収はいつまでにできるのか」を厳しく見ていかなければなりません。
場合によっては、あえて積極的な投資を行わず、売上を減らす判断も必要になるでしょう。これは救急等の、いわゆる不採算医療をやめろということではありません。むしろ、地域にとって必要な不採算部門を維持し続けるためにこそ、事業体の中に利益を残さなければなりません。利益は目的ではなく、地域医療を維持するための原資です。
だからこそ、総花的に何でも行うのではなく、自院の得意分野(集患が期待でき、既存の資産やノウハウを活かして利益が残せる分野)に重点化し、不得意な部分は近隣の病院にまかせることが重要です。これまで医療業界では、「豊富なラインナップで薄利多売」が当然とされていましたが、これからは「得意分野で厚利少売」へと、発想を切り替える必要があります。
藤田哲朗(医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長、医療経営士1級)[病院経営][建設費][金利][厚利少売]