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【識者の眼】「熊本地震から考える災害への備えと急性期からの心のケア」石上雄一郎

登録日: 2026.08.28 最終更新日: 2026.08.28

石上雄一郎 (麻生飯塚病院連携医療・緩和ケア科医長)

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今回の地震で被災された皆さまに、心よりお見舞い申し上げる。

発災から時間がたっても、住まいや生活の再建、持病の管理、睡眠不足や将来への不安など、災害の影響は長く続く。時間の経過とともに支援のニーズも変化するため、被災した方々の生活と健康を継続して支える視点が重要になる。

筆者も10年前、救急外来で診療中に熊本地震を経験した。2016年4月14日の震度7から約28時間後、さらに規模の大きな本震が発生し、再び震度7を観測した。勤務していた熊本赤十字病院は被災したが、基幹災害拠点病院として訓練を重ね、アクションカードや役割分担が初動を支えた。しかし本震では、救急外来が停電し、携帯電話のライトで診療し、その後は廊下へ診療場所を移した。災害カルテや物品も減り、職員自身も家族や自宅を案じながら働いた。

「備えていたことしか、役に立たなかった」

「備えていただけでは、十分ではなかった」

「普段できないことは、災害時にもできない」

この3つの言葉は今も、筆者が災害医療を考える軸になっている。災害対応では、計画や物品に加えて、想定が崩れたときに立て直す力が問われる。職員を交代させる仕組み、物品の再補充、外部支援を求める判断、診療場所や通信手段の代替案まで準備しておきたい。医療者には、日本内科学会の「災害医療アプリ」を勧めたい。災害発生前の準備から、病院、避難所、在宅医療支援、精神医療支援など、発災時の行動がアクションカードとして整理されており、平時に一度目を通すだけでも役立つ。

日本の災害医療体制は、大きな災害の経験を次の災害の備えに変えながら発展してきた。阪神・淡路大震災を契機に災害拠点病院などの整備が進み、2005年から災害派遣医療チーム(DMAT)の養成が始まった。東日本大震災では全国から多くの「こころのケアチーム」が活動し、そこで得られた課題をふまえて災害派遣精神医療チーム(DPAT)が整備された。2016年の熊本地震では、全国的なDPAT活動が初めて展開された。被災3日目から「こころのケアチーム」が活動していることには、当初驚いた。

災害時の心のケアでは、心理的応急処置(psychological first aid:PFA)の考え方が重要になる。まず、周囲を見る(Look)。安全や生活上の困りごとを確認する。次に、聴く(Listen)。本人が必要としていることを尋ね、話したいことに耳を傾ける。そして、つなぐ(Link)。家族、地域、医療、福祉、行政など、必要な支援へ結びつける。これを行うことに専門的な資格は不要である。

発災直後から一律にカウンセリングを行うことよりも、安心して眠れる場所を確保し、食事や水、常用薬を届け、家族と連絡が取れ、生活の見通しが少しずつ立つことのほうが重要である。住む場所や日常生活が整っていくこと自体が、心の回復を支える。安全、安心、つながり、自己効力感、希望を取り戻していく過程を支えることが、PFAの基本となる。強い精神症状や既存の精神疾患の悪化がある場合には、地域の精神保健医療やDPATが専門的な支援を担う。

心のケアは、安全な場所、食事、睡眠、薬、家族とのつながり、といった日常を取り戻すところから始まる。生活を整えていくことが、心の回復を支えていくのである。

石上雄一郎(麻生飯塚病院連携医療・緩和ケア科医長)[心のケア][PFA心理的応急処置

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