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【識者の眼】「『患者だから我慢が当然』からの転換─事業者へのカスハラ対策の義務化」越後純子

登録日: 2026.08.27 最終更新日: 2026.08.27

越後純子 (渥美坂井法律事務所・外国法共同事業弁護士、医師)

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2026年10月1日から、改正労働施策総合推進法(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律)により、カスタマーハラスメント(カスハラ)対策が事業主の義務となります。医療機関も例外ではありません。厚生労働省の指針では、カスハラに毅然と対応し、労働者を保護する方針の明確化、相談体制の整備、発生後の迅速な対応などが求められています。今回の法改正は、患者対応を「現場の我慢」から「組織の責任」へ転換するものと言えます。

医療現場では、暴言や威圧、執拗な要求だけでなく、性的言動、身体的な攻撃など、犯罪に該当しうる行為も生じます。一方、認知症や精神疾患などが言動に影響する場合もあり、患者の生命・健康への配慮や応招義務との調整も必要です。「新たな指針」も、サービスの中断が生命や心身の健康に重大な影響を及ぼす場合には、その特性に留意するよう求めています。

しかし、応招義務は職員に暴力や性的被害への忍耐を求めるものではありません。厚生労働省も、迷惑行為によって診療の基礎となる信頼関係が失われた場合には、新たな診療を行わないことが正当化されうるとの考え方を示しています。

法律の施行に向け、まず、管理者自身が「職員をカスハラから守る」と明確に宣言することです。その上で、具体的な対応ルールを定めておく必要があります。厚生労働省指針も、可能な限り職員を1人で対応させないことや、犯罪に該当しうる行為について警察へ通報すること、などを具体例として挙げています。小規模な診療所ほど、「院長が不在なら誰が判断するか」まで具体化しておくことが重要です。

加えて、被害を受けた職員のメンタルヘルスへの配慮も重要です。2023年に改正された「心理的負荷による精神障害の労災認定基準」では、「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」、いわゆるカスハラが、業務による心理的負荷を評価する「具体的出来事」として新たに明示されました。労災認定と使用者の損害賠償責任は別問題であり、労災認定されたからといって直ちに事業主の責任が認められるというわけではありません。

しかし、使用者は従来、心身の健康を含む労働者の安全に配慮する義務を負っています。今回、カスハラについて「1人で対応させない」「相談に対応する」「被害者のメンタルヘルス不調に対応する」といった事業主の措置が具体化されます。被害を把握しながら放置した場合などには、安全配慮義務違反の有無を判断する際にも、事業主が「何をすべきだったのか」が従来以上に明確に評価される可能性があります。

カスハラ対策では、患者の疾病や障害特性に適切に配慮しつつ、同時に職員の安全と尊厳を守る必要があります。職員を守ることは、安全で持続可能な医療を守ることでもあります。法律の施行を、そのための院内体制を見直す機会ととらえることも有意義です。

越後純子(渥美坂井法律事務所・外国法共同事業弁護士、医師)[カスタマーハラスメント][応招義務安全配慮義務

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