新生児集中治療室(NICU)で28年間働いてきた。最近、費用対効果や医療安全が重視される中、新生児医療に特化した医療機器の購入や使用を続けることの難しさを感じる機会が増えている。新生児医療が大切にしてきた「小さな体格や脆弱さに配慮した医療」が見失われないかと危惧している。
新生児、特に低出生体重児は、成人をそのまま小さくした患者ではない。全身の臓器や免疫機能は未発達であり、人工呼吸器の設定や薬物の投与量など、診療の細部への配慮が医療の質や安全性、感染リスクに関わる。
成人から新生児まで共通して使える汎用性を利点とする医療機器を紹介されると、赤ちゃんに大人の服を着させているように感じる。子ども服は割高で対象が限られるからといって、体重が100倍も違う大人の服を赤ちゃんに着させようとは思わない。医療も同じではないだろうか。
日本の新生児医療は、世界的に見ても高い水準にある。その背景には、小さな体格や生理機能に合わせた保育器や人工呼吸器、肺サーファクタント製剤など、低出生体重児に必要な医療機器や薬剤の開発に取り組んできた医療者や企業の努力がある。効率化や費用対効果を優先するあまり、こうした医療が軽視され、新生児医療の質や安全性を損なうことにならないか。同じ懸念を抱く医療者や企業関係者もいるが、小児医療の現場の声は、医療界全体には届きにくい。必要性を理解してもらう難しさに、やるせなさを感じる。
小児用の医療機器や薬剤は患者数が少なく、開発や治験が難しく、採算も取りにくい。これは国際的な課題でもある。米国食品医薬品局(FDA)も、小児は成人とはサイズや成長の度合い、身体機能などが異なるため、小児用医療機器の開発には特有の難しさがあり、小児用として使える医療機器が少ないことを課題としている。大多数の成人を想定した医療の標準に、少数である新生児をそのまま合わせてよいのかをともに考えたい。
新生児・小児期に治療を受けた多くの子どもたちが成人期を迎える現代、小児期の医療を軽視した影響が、20年後の心身の健康や成人医療へのツケとならないかを危惧する。予防医学の観点からも、新生児・小児に適した医療機器や薬剤の開発はむしろ推進すべきと考える。子どもたちに今どのような医療を届けるかは、この国の未来にもつながっている。
子どもの医療費無償化は大切である。しかし、それだけが「子どもを大切にする医療政策」ではない。少子化が進めば進むほど、新生児・小児向けの医療機器や薬剤を企業努力や必要性だけで開発・維持することは難しくなるだろう。目先のコストだけでなく、その子が生きるこれから何十年という人生まで見据え、小児医療の価値を考え、社会として支援する未来志向の視点を、多くの人たちと持ち合っていきたい。
赤ちゃんに大人の服を着させ、「着られるからこれでよい」とするような医療ではなく、その子の身体と成長に合う医療でありたい。小児医療に必要な手間を単なるコストととらえず、子どもたちそれぞれの人生と社会の未来への投資と考えたい。世代を問わず命を大切にし、子どもたちの健やかな成長を社会全体で応援する。その先に、この国のよりよい未来があることを、NICUから信じている。
豊島勝昭(神奈川県立こども医療センター新生児科部長)[新生児医療][NICU][医療安全]