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【識者の眼】「精神科病床が減らない」宮岡 等

登録日: 2026.08.21 最終更新日: 2026.08.21

宮岡 等 (北里大学名誉教授)

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WHOの資料などによると、2005年頃の日本の人口10万人当たりの精神科病床数は約280床で、経済協力開発機構(Organisation for Economic Co-operation and Development:OECD)加盟国ではドイツ約140床、英国約60床、米国約35床などと比べても突出して多かった。閉鎖病棟を含む精神科病床での入院生活よりも、地域で必要な生活支援を受けながら暮らすことが望ましいのは言うまでもない。しかし、退院促進や病床削減が十分に進んでいるとは言いがたい。そのことについて、私の心に強く残っていることを4つ挙げたい。

第1に、30年ほど前、当時既に90歳近かった精神科医から聞いた話である。その医師は1956年に精神科病院を開設したが、「前回の東京オリンピック(1964年開催、1959年に東京開催が決定)が決まってからは、政府が『精神分裂病(現在の統合失調症)の人を町に放置せず、病院に、あるいは病院をつくってでも収容しろ』という方針だったので大変だった」と語っていた。実際、日本の精神科病床数は1955年頃から急増している。

第2に、新聞で紹介されていた日本精神科病院協会幹部の「現在の社会状況では、退院するよりも入院を継続したほうが患者にとってよい生活となる場合も多い」という趣旨の発言である。この言葉は退院促進とは逆行するようにも受け取られる。しかし、精神科慢性期病棟で20年以上入院している患者をみていると、家族とのつながりが稀薄となり、退院後にひとり暮らしをしても社会的支援が十分とは言えない例が少なくない。教室の同僚が執筆した『精神科長期入院よ さようなら』(中村 充、金剛出版)には、地域生活への移行を支援する主治医の苦労が現場の声として描かれている。一方で、退院を阻む最大の要因は「退院も回復も無理と医師が早々に諦め、結果的に患者の意欲を失わせたこと」であり、長期入院の背景には医療者側の問題もあると指摘し、退院支援の重要性を強調している。

第3に、日本の精神科病院の約8割は私立病院である。精神科病院に勤務する同僚医師からは、「空床ができると、できるだけ病床を埋めるよう病院経営者から求められ、最近は認知症患者の入院が増えている」と聞いたことがある。病床削減を進めるためには、多くの職員を抱える精神科病院に対する経済的支援も必要ではないだろうか。

第4に、日本精神科病院協会と関係が深い日本精神科病院政治連盟には政治活動費がある一方、日本精神科診療所協会、日本総合病院精神医学会、日本精神神経学会などには同様の政治活動組織はないと聞いている。社会福祉の充実には政治の果たす役割が大きく、政策決定に政治活動費が及ぼす影響は少なくない。だからこそ、精神科医療に関わる政治活動についても、より透明性を高め、幅広い議論が行われることが望ましいと考える。

様々な要因が絡み合っているとしても、最も重要なのは、精神疾患のある人に対する社会の偏見をいかに減らしていくかである。実は、それが最も難しい課題なのかもしれない。

宮岡 等(北里大学名誉教授)[精神科病床][統合失調症

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