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【識者の眼】「医薬品業界のアンケートにどう答えるべきか」小野俊介

登録日: 2026.08.21 最終更新日: 2026.08.21

小野俊介 (東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学准教授)

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医薬品業界の調査・研究でよく用いられる「アンケート」。私もときどき回答を依頼されるが、そのたびに申し訳なく思う。その手のアンケートに、まともに回答できた記憶がない。私の知識・能力不足のせいか、どう答えてよいのか、途方に暮れる設問が多いのである。

たとえば、「今の日本の新薬研究開発の障壁は何だと思いますか?」という問い。「え? そんなこと唐突に問われても……」と困惑するしかない。「日本」「新薬研究開発」といった言葉もあいまいだが、それ以上に困るのは、「そう思う私」とは誰なのかがわからないこと。製薬会社の社長? 治験センターの医師? もしかして、カーボベルデのゴールキーパー?

研究者が製薬企業にこうしたアンケートを送ると、薬事担当者が「またかよ。面倒臭いなぁ」と呟きながらも、それなりの回答を創作して下さる。アンケートの多くはお上(厚生労働省研究班)や業界団体からなので無視もできない。回答率は異様に高い。

業界アンケートの結果は「よくある感じ」のお答えの集大成となる。そりゃそうである。まじめな会社員は私のように妄想には浸らない。社長に成り代わって好き勝手な提案をしたり、カーボベルデ在住の患者の気分で答えたりしたら、会社をクビになる。

「回答には、個人ではなく組織の意見を書くのですよ」という声もあろう。が、組織(会社、病院、厚生労働省)って何だろう。そうした「集団行為者」を認めるか、あるいはすべてを「個人」に帰するべきかは社会存在論(哲学の一領域)においていろいろな説があるが、企業の方々がそんな難問に日々取り組んでいる、という話は寡聞にして知らぬ。

アンケートが怪しいのは日本だけではない。欧米のコンサルによる政府関係者へのアンケートに、「あなた自身の判断の一貫性・透明性を5段階で答えて」という設問があり、目が点になったことがある。これは皮肉か何かだろうか? ところが、多数のおエライさんが堂々とこれに答えたという事実を知り、さらに頭が混乱した。

しかし、四の五の言うのはこのへんでやめようと思う。私だって業界界隈で何十年もメシを食わせて頂いているのだ。アンケート実施者のお望みくらいわかっている。新聞の見出しに載ってるような、通り一遍の、誰もが知っている危機意識を答えればよいのですよね。「日本の治験の質は高いのに正当に評価されてない」とか、「新薬のイノベーションの価値をもっと評価すべき」とか、「AIの活用は喫緊の課題」とか。はいはい、そう答えますって。

これで「あなたの判断は透明ですか?」と欧米のコンサルに問われても、胸を張って「Yes」と答えられる。私個人の考えなど1ミリも入っていない、無色透明の素晴らしい回答だ。

ほぼ無意味だけど。

注 先日のサッカーワールドカップで大活躍した人口60万人の小さな島国。

小野俊介(東京大学大学院薬学系研究科医薬品評価科学准教授)[医薬品業界][アンケート

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