7月というのに、毎日のように猛暑・酷暑の報道。夏の暑苦しさを少しでも和らげようとする日本人の知恵に、怪談話がある。そこで筆者の経験話を一席……。
私は既に死んでいた……。それでは、ここにいる私は何?
先日、50年来の友人Aから久しぶりにメールが届いた。今度入院して手術を受けることになり、「そういえば医者をやっている西村にいろいろ聞こう」と思ったそうだ。その前に筆者の近況を知ろうと、インターネットで「西村秀一 現在」と検索したという。筆者の写真とともに、そこに書かれていたこと。それは……。
「西村秀一は2025年9月22日に生涯を閉じました。……彼の生涯と業績についての詳細は、彼のWikipediaページで確認できます」
どうやら今、筆者は幽霊らしい。誰かのひどいいたずらなのか? Aが言う。
「おまえ誰かに恨まれてないか?」「外国人に恨まれていやしないか? ……どうも日本語がおかしい」
そこで内容をよく読んでみると、確かに日本語がおかしい。
「彼の葬儀は無事に終えられ、多くの人に支えられました」
主語と述語がまったく対応していない。そこでピンときた。これはartificial intelligence(AI)が勝手につくった文章ではないか。たぶん私と同姓同名の「西村秀一」さんが日本にいて、その方が2025年9月に亡くなられていた。そしてAIが、その方と私を混同したのではないか? その後、しばらくして同じ検索を行ったところ、私は無事、生きた存在に戻っていた。
さて、ここからはこの経験で勉強したことだ。ネット記事は、時に嘘をつく。意図的な嘘─大地震の際に人を惑わせるフェイクニュースはその典型である─もあれば、意図的ではないものの、間違えることもある。その間違いには、書き手の思い込みによるものと、今回のようなデータの選択ミス、あるいは元データそのものの誤りがあるだろう。ここでは後者について考えたい。以下は、ある実験で結論に至るまでのプロセスをAIに尋ねた共同研究者Bと、筆者とのやりとりである。
(B):「結論に至るまでの計算過程を詳細にたどることができ、世界的教科書の記述内容以上に精緻な解析となっており、大学教授やコンサルタントも不要な時代が来たなと感じました。まさにAI恐るべしです。……泥臭い実験はAIには当面できないでしょうが」
(筆者):「泥臭い実験こそが大事です。その結果こそ真実です。解釈は後からついてくるもの。AIの説明もそういった泥臭い仕事のデータがもとになっているはずです」
AIの仕事のもとになっているデータは、人間がつくるものだ。しかし、“To err is human”(人は誰でも間違える)。その人間のデータがもとである以上、AIも間違った方向へ進むことがある。我々は、別にAIのためではないが、これまで通り地に足のついた仕事を積み重ね、正しい結果を残していく必要があるだろう。AIとは適切な距離を保ちながら。
西村秀一(独立行政法人国立病院機構仙台医療センター臨床研究部前ウイルスセンター長)[AI(人工知能)][フェイクニュース]