医療は不完全な科学である。眼科医療分野は特にこの傾向が強い。
70歳の男性は、10歳のときに熱病で目が白濁し見えなくなり、某大学病院にかかったが、「治療法がない」とされ、その後60年間、3カ月ごとに同病院に通院した。私が診察したところ、光覚弁が保たれていたため、角膜移植術、白内障手術、網膜硝子体手術を行った。術後、両眼とも視力は0.7まで回復し、患者から点字のお礼の手紙を頂いた。
「文字は読めないか」と聞くと、患者は「文字は見える。でも、10歳で失明したので、文字の意味がわからない」と答えた。失われた時間は戻らない。漫然と経過観察を続けることは、患者の人生を奪うことにもつながる。