本稿を書いている2026年7月、AnthropicのClaude Fable 5やOpenAIのGPT-5.6など、性能を大きく向上させた生成AIの最新世代モデルが相次いで登場しました。7月に参加した第76回日本病院学会でも、生成AI活用をテーマにした発表やセミナー、企業展示が数多くみられ、医療現場でも実装フェーズに入ったことを実感しました。生成AIは、いまや社会のあらゆる場面へ急速に浸透しつつあります。
一方で気になるのが、こうした変化が人材育成に及ぼす影響です。マイナビの「2027年卒 企業新卒採用予定調査」では、新入社員に任せている業務のうち、データ入力や集計、定型的な資料作成の半数以上が「AIで代替可能」と評価されています。これらは習得のハードルが比較的低く、生産性も高くないことから、経験の浅い若手に割り振られることの多かった業務です。こうした定型業務が効率化を目的としてAIへ置き換えられていくことは、もはや避けられない流れでしょう。
しかし、これらの仕事は、新人が組織や現場の全体像を理解していくための「入口」としての役割も果たしてきました。自分自身を振り返っても、こうした業務を積み重ねる中で、現場を見る視点や業務の要点をつかむ洞察力が少しずつ養われてきたように思います。AIの実装によって、このような「下積み」の機会が失われるのであれば、新人教育そのもののあり方も見直さなければなりません。何を優先して読み取り、どこに着眼し、どのように判断するのか。これまで「場数をふめば自然に身につく」と考えられてきた洞察力を意識的に形式知化し、教育に組み込んでいく必要があります。
さらに、AIは整理された情報を提示してくれますが、その内容を職員自身が理解し、適切に評価できているかどうかは別の問題です。これから社会へ出る若手は、いわば「AIネイティブ」の世代であり、AIを業務に利用すること自体には抵抗はないでしょう。しかし、「AIの出力は妥当なのか」「最終的にどのような判断をくだすべきなのか」といった洞察力は、AIを操作する能力とは適切にわけて評価しなければなりません。この確認を怠れば、経験を積んでいるように見えて、実際には何も身についていないという空洞化が静かに進んでいくことになります。キャリアラダーなどの能力評価においても、AIの出力を検証し、適切に判断できる力そのものを、職員の習熟度や到達度を評価する項目として組み込む時期に来ているのではないでしょうか。
AIが賢くなればなるほど、人間に求められるのは、目の前の作業を効率よくこなす力ではなく、洞察力や倫理観、そして職業観そのものです。とりわけ、人の生命や生活に直接関わる医療の現場では、その職業観の重みは他業種以上に大きいはずです。これまでの人材育成は「業務(≒作業)を遂行できること」に主眼が置かれていました。しかし、その前提そのものが転換期を迎えています。
藤田哲朗(医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長、医療経営士1級)[生成AI][人材育成][洞察力]