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【識者の眼】「会話、民主主義、意思決定」森川すいめい

登録日: 2026.08.03 最終更新日: 2026.08.03

森川すいめい (NPO法人TENOHASI理事)

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ある出版社の方から、『忘れられた日本人』(宮本常一、岩波書店)の「対馬にて」の章の原稿が送られてきた。民主的とはこのことではないか、と。宮本氏は日本全国をくまなく歩いた民俗学の人である。

舞台は対馬で、宮本氏が1つのお願いをする。相談を受けた人は、自分では決められないから話し合いにかけるが、決定に至るまでのやりとりに3日かかったという。その進め方は、議論のように賛成・反対を出し合うものではなかった。そのことにまつわる思い出や経緯、少し離れた話題まで含め、関係する人たちが会話を続けていく様子だった。宮本氏は、忘れられてしまっていないかと思い、3日目に改めて伺いを立てた。すると、条件つきながらあっさりと「いいよ」となった。

出版社の方と、「民主主義は海外から輸入されたものだと言われるけれど、本当の民主主義は日本にあったのではないか」と話が盛り上がった。この雰囲気の話は、米国の先住民の研究をする人からも以前に聞いたことがあった。部族の内外で問題が起きたとき(たとえば誰と誰が浮気したといったことで)、長老が出てきて関係者たちで輪になって座り、1人ずつ話をするというものだ。それは3日間続いたと言っていた。いつ終わりになるのかと尋ねたら、「新しい考えが出なくなったときだ」と。

ふと、ノルウェーの会話研究者トム・アンデルセン氏の言葉を思い出した。誰にでも経緯と期待があるのだから、そこから会話を始めることを勧めていた。なるほど、これらの話は、参加者たちがそれに関係することを語りつくさないことには、決められないということだ。

しかし、そんなことは日本ではもう難しいのではないかと思っていたところ、たまたま中ノ島の海士町で友人たちと会話をしているうちに、宮本氏の文書を紹介してみたくなった。「海士町での会議はどう?」と聞くと、友人たちは「そうだ」と言った。友人の1人は、「だから物事が決まらない」と語った。それを聞いて私は、誰かの言葉で別の誰かが語らなくなることがない、全員が大事にされる場所での会議とは、こういうものなのかもしれないと思った。

海士町にはコンビニがない。コンビニ事業者から参入の話はあったというが、このようにして参入は決定されていない。一人ひとりの顔が見え、それぞれが商売をしている。そのあり方がよいと、皆が語り尽くせているからだと思った。新規に参入したバーは、22時に閉まる。近くのスナックの営業を大切にしたいからだ。邪魔をしないためではない。

私は「ベンチが会話の役に立つ」という話題を、海士町に持ち込んでいた。それに関心のある人たちがいて、それぞれから「会いましょう」と言われた。私は知見を共有できるのかなと思っていたが、まあ、私の話は聞かれることがなかった。会話を重ねながら、彼らはすっきりした様子で立ち去って行った。たぶん、ベンチはつくられるのだろう。

森川すいめい(NPO法人TENOHASI理事)[会話][民主主義意思決定][合意形成

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