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【識者の眼】「睡眠薬服用時の運転─ボルノレキサントの登場で運転への影響を再考する」船見正範

登録日: 2026.07.31 最終更新日: 2026.08.03

船見正範 (株式会社パワーファーマシー医療学術・薬事管理部、NPO法人くすりと地域医療を考える会・MEBiUS代表)

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睡眠薬を服用する患者さんに、これまで薬局では「自動車の運転は避けて下さい」と指導してきました。ベンゾジアゼピン系薬、メラトニン受容体作動薬、そしてオレキシン受容体拮抗薬まで、多くの睡眠薬の添付文書には、「自動車の運転など危険を伴う機械の操作に従事させないように注意」と記載されており、運転そのものを控えることが求められてきました。避けては通れない指導です。

ただ、この一律の指導には、いつもジレンマがつきまとっていました。公共交通機関だけでは生活が成り立たない地域では、「運転を控えたら仕事に行けない」「通院にも車が必要だ」という相談を受けることが少なくありません。運転しないよう指導することは、患者の生活を止めることと、しばしば同義になります。かといって、安全面から自己判断での運転継続を容認することもできません。一律の禁止か、黙認か。その二択に頭を悩ませている先生も多いのではないでしょうか。

2025年11月に発売されたオレキシン受容体拮抗薬ボルズィ(ボルノレキサント)は、ここに新たな選択肢を示しました。他のオレキシン受容体拮抗薬を含む多くの睡眠薬が「運転など従事させないように注意」と記載しているのに対し、ボルズィの添付文書では、「『臨床成績』の項を熟知し、患者の状態を十分に把握した上で、自動車の運転等の危険を伴う機械を操作することの適否を慎重に判断」する、と記載されています。運転の可否を一律に禁止するのではなく、患者ごとに判断する、という考え方が示されたのです。

その背景には、自動車運転シミュレーターを用いた運転技能評価試験があります。承認用量の上限である10mgと、その倍量である20mgを反復服用し、投与9時間後の翌朝に、自動車走行中のふらつきの指標であるSDLPを、プラセボおよび陽性対照薬のゾピクロンと比較した試験です。主要評価項目では、10mg、20mgともに、プラセボとの差は「血中アルコール濃度0.05%相当の運転障害」とされる事前設定閾値を超えませんでした。一方、ゾピクロンでは、その閾値を超える被験者が明らかに多く認められました。半減期の比較的短いゾピクロンであっても翌朝の運転技能への影響が検出されうること、また、運転への影響は眠気の自己評価だけでは判断しにくいことを改めて示した結果でもあります。

ただし、ここで注目したい点があります。集団平均では閾値を下回っていたものの、個々の被験者でみると、特に服用初期の翌朝には、10mgでも7.3%、20mgでは20.4%が、ゾピクロンでは32.1%が閾値を超えていました。つまり、承認用量であっても一定の割合の患者では、飲酒運転に相当するレベルのふらつきが翌朝まで残る可能性がある、ということです。しかも、その人たちが強い眠気を自覚していたとは限りません。一律の「運転禁止」は、この個人差─閾値を誰が超え、誰が超えないのか─を、一括して扱っていました。そして、ボルノレキサントが示した「個別に判断する」とは、平均ではなく、目の前の1人を評価する、ということなのだと思います。

では、私たちは何を確認すべきでしょうか。まず外せないのは、十分な睡眠時間を確保できる状況かどうかです。この試験で評価されたのは投与9時間後であり、短時間睡眠の翌朝や、夜間に起きて活動する場面での安全性までは示されていません。その上で、投与開始直後や増量時、翌朝に眠気・ふらつき・集中力低下が残る場合、前日夜に飲酒を伴う場合、併用薬や肝機能の影響により薬物曝露が高くなる可能性がある場合には、より慎重な判断が必要になります。

運転を続けられるかどうかは、患者の生活に直結します。だからこそ、一律に禁じるのでも、黙認するのでもなく、一人ひとりの状況を見ながら判断する。ボルノレキサントの登場は、その判断を私たち医療者に求める時代になったことを示しているのではないか、と考えています。

船見正範(株式会社パワーファーマシー医療学術・薬事管理部、NPO法人くすりと地域医療を考える会・MEBiUS代表)[睡眠薬][運転指導ボルノレキサント

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