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【識者の眼】「疾患名を越えて考える非がん緩和ケア」石上雄一郎

登録日: 2026.07.30 最終更新日: 2026.07.30

石上雄一郎 (麻生飯塚病院連携医療緩和ケア科)

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2026年度診療報酬改定では、緩和ケア診療加算の対象として、従来の悪性腫瘍、AIDS、末期心不全に加え、末期呼吸器疾患と末期腎不全が明記されました。がんを中心に整備されてきた緩和ケアが、制度上も非がん疾患へ広がりはじめた意義は大きいと言えます。

世界的にも、成人の緩和ケアニーズのうち、がん患者は28.2%であり、70%以上は非がん疾患が占めています。一方、わが国でも、がん以外の疾患による死亡は全死亡の半数近くを占めています。しかし、日本緩和医療学会の緩和ケアチーム登録では、がん以外の疾患に関する依頼は6.0%にとどまっており、必要性と提供体制の間には大きな隔たりがあります。

COVID-19パンデミックでは、重症感染症や急性呼吸不全において、救命治療と並行した症状緩和、家族とのコミュニケーション、生命維持治療の選択が求められました。緩和ケアは「敗北の医療」ではありません。痛みや呼吸困難を和らげることだけでなく、病状理解を確認し、治療目標を話し合い、家族支援や社会資源の調整を行うことも緩和ケアです。治療と緩和は対立するものではなく、どちらも病気とともにどう生きるかを支える医療であり、救急外来や集中治療室でも必要とされる医療です。

非がん緩和ケアが難しい理由は、大きく3つあります。

病気の経過が、がんと異なること

がんは比較的、進行と終末期が見えやすい一方、心不全や呼吸不全などの慢性臓器不全では、増悪と改善を繰り返すため、終末期が見えにくくなります。認知症や神経難病では、機能がゆっくりと低下し、経口摂取困難や誤嚥性肺炎、尿路感染症を繰り返しながら進行していきます。脳卒中や低酸素脳症では、急激に重篤化し、回復・死亡・重度後遺症へと転帰がわかれます。

「死に至りうる病気である」という認識を持ちにくいこと

急性増悪で入院しても、治療により一時的に改善することがあるため、患者や家族だけでなく、医療者も「今回も治療すればよくなる」と考えがちです。しかし、入退院の反復や感染症の繰り返しは、病気全体の進行を示す重要なサインでもあります。だからこそ、早い段階から病状の見通しや今後の治療・療養について話し合うことが重要になります。

治療選択が、その後の人生を大きく左右すること

たとえば、心疾患では強心薬、ICD、LVAD、ECMOなどの、神経疾患では人工呼吸器や人工栄養などの選択肢があります。単に命を延ばすということだけではなく、「どのように生活していきたいか」ということにも直結します。だからこそ、本人の価値観に基づく意思決定支援が重要になります。

今回の診療報酬改定を機に、私たちは「がんなのか、非がんなのか」ではなく、「この患者にも緩和ケアが必要ではないか」と問い直したいと思います。疾患名だけで線を引くのではなく、苦痛の大きさ、予後の不確実性、意思決定の重さをとらえ、その中で本人の価値観を中心とした意思決定を支えること。その視点こそが、これからの非がん緩和ケアに求められているのではないでしょうか。

石上雄一郎(麻生飯塚病院連携医療緩和ケア科)[診療報酬改定][非がん緩和ケア

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