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【識者の眼】「PMX-DHPに関するエビデンス確立の険しい道のり」康永秀生

登録日: 2026.07.23 最終更新日: 2026.07.23

康永秀生 (東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授)

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ポリミキシンB固定化繊維カラム直接血液灌流法(PMX-DHP)は、敗血症性ショックなどの治療に用いられるエンドトキシン吸着療法である。PMX-DHPは日本で開発され、1994年に保険適用となって以来、集中治療の現場で広く利用されてきた。

PMX-DHPのランダム化比較試験(RCT)によるエビデンスは、20年近くさまよい続けてきた。最初にイタリアで実施された小規模RCT(EUPHAS試験)では、PMX-DHPによる死亡率改善効果が示された1)。しかし、このRCTは患者背景のバランス調整に失敗していた上、対照群の死亡率が異常に高すぎるなど限界が多く、評価に値しないものであった。その後、フランス18施設で実施されたRCT(ABDOMIX試験)では、PMX-DHPによる死亡率改善効果は示されなかった2)。さらに、北米55施設で実施されたRCT(EUPHRATES試験)でも同様に、PMX-DHPの有効性は示されなかった3)。『日本版敗血症診療ガイドライン2024』では、敗血症に対するPMX-DHPは生存率改善のエビデンスが不足していることから、「敗血症に対して,PMX-DHPを行わないことを弱く推奨する(GRADE 2D)」とされ、この治療は終わったかに見えた。

しかしその後、EUPHRATES試験の事後分析(post-hoc analysis)において、一部の患者群では有効性が期待できる可能性が示唆された。具体的には、敗血症の重症度を示すエンドトキシン活性が0.90以上の患者群では治療への反応は期待できず、0.60〜0.89の患者群、すなわち「重症かつ治療可能な集団」に限定すると、PMX-DHP群のほうが死亡率は低かった4)。これを受けて、新たなRCT(Tigris試験)が実施され、その結果が2026年5月に報告された5)

Tigris試験の適格基準は、0.05μg/kg/分を超えるノルアドレナリンなどの昇圧薬投与を必要とする低血圧、30mL/kgを超える静脈内輸液、多臓器不全、エンドトキシン活性0.60〜0.89など、恐ろしく厳しいものであった。1万4890例をスクリーニングし、臨床基準に合致した328例を抽出し、その中からエンドトキシン活性0.60〜0.89であった157例を登録して、PMX-DHP群106例、対照群51例に割りつけた。その結果、28日死亡率はPMX-DHP群が41例(39%)、対照群が23例(45%)となり、有効性が示された。まさに執念のRCTである。対象を絞りに絞った一部の患者層にわずかながら有効性が認められ、PMX-DHPは生きながらえた。

さて、上記PMX-DHPの例は、根拠に基づく医療(EBM)を考える上で、いくつか重要な示唆を与えている。まず、エビデンスが確立するまでには、研究者たちは長く険しい道のりを歩まなければならない。PMX-DHPの最初のRCTが報告されたのは2009年であり、それから17年後のTigris試験によって、ようやく議論の終着点が見えた感がある。

もう1つは、エビデンスをいかに臨床に生かすかという問題である。Tigris試験の結果によって、PMX-DHPに対する評価が180度変わるわけではない。今後もPMX-DHPを実施するのであれば、Tigris試験の適格基準に合致する「重症かつ治療可能な集団」に適応を限定すべきであろう。適応外使用が日常茶飯事である実臨床において、エビデンスに基づく敗血症診療がどの程度普及していくのか、今後もモニタリングが必要であろう。

【文献】

1) Cruz DN, et al:JAMA. 2009;301(23):2445-52.

2) Payen DM, et al:Intensive Care Med. 2015;41(6):975-84.

3) Dellinger RP, et al:JAMA. 2018;320(14):1455-63.

4) Klein DJ, et al:Intensive Care Med. 2018;44(12):2205-12.

5) Neyra JA, et al:Lancet Respir Med. 2026;14(5):443-52.

康永秀生(東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授)[PMX-DHP][EBM敗血症診療

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