当院で勤務している常勤看護師で,育児のために勤務時間を短縮している人がいます。先日,他の看護師から,本人が別のクリニックで休診日に勤務していると報告されました。実際に他院で仕事をしているのは,当院が休診のときのようなので実害はありません。また,想定していなかったので,兼業についての勤務規定はありません。
この場合,何か法律上の問題はあるのでしょうか。現実的には,本人がいつでも休めるように他の看護師を雇っているので,こちらには金銭上の負担はあります。
また,この仕事は他の看護師からあっせんされたようです。このような友人へのあっせん行為は,対価を受けていなければ誰もがしてよいのでしょうか。ご教示下さい。(東京都 M)
【回答】
【育児時間の取得は従業員の権利である。兼業・副業は原則として自由である】
(1)ご質問に回答する前提として労働法制上の「育児時間」について確認しておきます。労働基準法は,生後満1年に満たない生児を育てる女性は通常の休憩時間のほか,1日2回各々少なくとも30分,育児時間を請求することができ,使用者は,育児時間中は,その女性を使用してはならないと定めています(第67条)。なお,育児時間は分割ではなく,まとめてとることもできると解されています。また,育児・介護休業法(育児休業,介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)は,3歳未満の子を養育する従業員について,従業員が希望すれば利用できる短時間勤務制度を設けなければならないと定めています(第23条1項)。短時間勤務制度については,1日の所定労働時間を原則として6時間とする措置を含むものでなければなりません(同法施行規則第73条)。ご質問では,「常勤看護師」であり,「育児のために勤務時間を短縮している」ということです。これだけでは,上記のいずれに該当するか不明ですが,いずれにしても従業員の権利とされています。
なお,育児・介護休業法は2012(平成24)年7月1日から100人以下の労働者を雇用する事業主についても適用されたことにご注意下さい。
当該看護師が,貴医院の休診日に他のクリニックで仕事をしている点については,副業に該当すると思われます(なお,ご質問では「兼業」となっていますが,実態としては「副業」と思われます。いずれにしても検討内容が変わることはありません)。副業,兼業については,従業員が労働時間以外の時間をどのように利用するかは従業員の自由であり,副業,兼業を制限できるのは労務提供上に支障がある場合,業務上の秘密が漏洩する場合などに限定されるというのが裁判例です。最近は国も労働者の副業,兼業を推奨しており2018(平成30)年1月には「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を公表しています。実際,大手銀行が全従業員を対象に副業,兼業を認めることを公表しており,同様の企業は増えています。
(2-1)ご質問の趣旨は,一方で勤務時間を短縮して育児時間を取得しておきながら,他方で副業をすることに問題があるのではないかということと推察いたします。この点,育児は毎日行わなければならないものであって,平日は仕事に充て休日にまとめて育児をするというのは,育児の性質上無理があります。したがいまして,平日の育児時間の取得と休診日の副業とは直接の関係性は特段の事情がない限り,ないと考えられます。
(2-2)さらに,当該看護師がいつでも休めるように他の看護師を雇用している点についても問題であるとのご指摘です。この点につきましては,育児・介護休業法に看護休暇についての規定が定められています。小学校第三学年修了前の子を養育する従業員は,事業主に申し出ることにより,1人の場合は年に5日まで,2人以上の場合は年に10日まで,1日単位で休暇を取得することができます(同法第16条の2)。そして,事業主は従業員の前記申し出を拒むことができません(同法第16条の3)。このように,看護休暇が従業員の権利とされている以上,そのために他の看護師を雇用して金銭上の負担をしていることについて,その責任を当該看護師に負わせることはできません。
(2-3)当該看護師が,他の看護師からあっせんを受けて副業についている点につき,他の看護師の行為が法令違反ではないかというご質問について検討いたします。無料の職業紹介事業は職業安定法第33条により認められています。ただし,そのためには厚生労働大臣の許可を得なければなりません。そこで,他の看護師が行った行為が「事業」に該当するかが問題となります。「事業」とは「一定の目的をもって反復継続的に遂行される同種の行為の総体を指す。」(有斐閣『法律用語辞典』第3版)とされています。他の看護師が「事業」として不特定多数を対象にあっせん行為を繰り返しており,かつ厚生労働大臣の許可を得ていなければ法令違反となりますが,たまたま友人を紹介した程度であればいまだ「事業」とは言えないでしょう。
ご質問に対する回答は,以上です。今後は,就業規則等により「育児」と「副業・兼業」について整備されることをお勧めします。
【回答者】
吉岡譲治 アンカー法律事務所・弁護士