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【識者の眼】「昇進と実力の乖離─ジェンダー研究からの示唆」河野恵美子

登録日: 2026.07.07 最終更新日: 2026.07.07

河野恵美子 (大阪医科薬科大学一般・消化器外科)

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十分な素質や実績を備えながら、女性やマイノリティが一定の職位以上に昇進することを阻む組織内の障壁は、「ガラスの天井」と表現される。評価の公平性を担保することは容易ではない。しかし、その評価が属性や偏見によって歪められているとすれば、看過できるものではない。

ノーベル経済学賞を受賞したゴールディン教授は、2000年に米国オーケストラ楽団の採用過程を分析した研究を発表している。この研究は、評価が実力以外の要因に左右されうることを示したものである。受験者と審査員の間に衝立を置き、演奏の音だけで判断するブラインド・オーディションを導入した結果、女性の合格者が大幅に増加した。これは、先入観や無意識のバイアスが公平な評価を阻害しうることを端的に示した結果と言える1)

医学領域におけるジェンダー研究でも、診療成績に関する興味深い知見が報告されている。Tsugawaらは、65歳以上の一般内科入院患者約150万人を対象に、男性医師と女性医師が担当した患者の30日死亡率および再入院率を比較した。その結果、女性医師が担当した患者のほうが有意に低いことを示した2)。本研究は大きな注目を集め、JAMA Internal Medicine編集部による「2017年のトップ論文」の首位に選ばれたほか、Altmetric.comが選定する「一般社会で関心の高かった論文100」において第3位となった。

外科領域においても、手術成績を指標とした研究が報告されている。2017年、Wallisらは25種類の一般的外科手術を対象に、男女の外科医が担当した患者の術後成績を比較した。その結果、女性外科医が担当した患者では、術後30日以内の死亡率はわずかながら低かった。一方で、複合エンドポイント(死亡、再入院、合併症の複合)については有意差を認めなかった3)

さらに、2023年には、同グループがより長期の転帰を検討している。女性医師が担当した患者では、術後90日での複合エンドポイントに加え、90日以内の死亡率および1年死亡率も有意に低いことがJAMA Surgeryに報告された4)

このような報告は他にも散見される。少なくとも臨床成績などの客観的指標に照らす限り、女性が指導的立場を担う能力について不利な評価を支持する根拠は乏しい。しかし現状は、指導的地位に占める女性の数は極端に少ない。Association of American Medical Collegesのデータによれば、外科領域においてfull professorsの男女平等が達成されるのは2136年と推計されている5)

こうした実力評価と昇進機会との乖離は、いわゆる「ガラスの天井」に象徴される、評価や登用の過程に内在する構造的要因の存在を示唆している。今後は、ジェンダー研究を通じてそのメカニズムを可視化し、より公平な評価や仕組みへといかにつなげていくのかが問われている。

【文献】

1) Goldin C, et al:Am Econ Rev. 2000;90(4):715-41.

2) Tsugawa Y, et al:JAMA Intern Med. 2017;177(2):206-13.

3) Wallis CJ, et al:BMJ. 2017;359:j4366.

4) Wallis CJ, et al:JAMA Surg. 2023;158(11):1185-94.

5) Abelson JS, et al:Am J Surg. 2016;212(4):566-72.

河野恵美子(大阪医科薬科大学一般・消化器外科)[ジェンダー研究][ガラスの天井男女格差

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