CRBSIを疑った場合に,カテーテルは抜去すべきか?
CRBSIと診断された場合,その原因となったカテーテルは原則として抜去すべきである。その主な理由は,カテーテルにバイオフィルムが形成され,その影響で抗菌薬の浸透性が低下して十分な治療効果が得られなかったり,一定期間抗菌薬を投与したとしても,治療終了後に再燃したりするリスクが高いからである4)。カテーテルの外表面および内腔のいずれにもバイオフィルムは形成されうるが,留置期間が10日以内では外表面での形成が優位となり,30日を超えると内腔での形成が優位となることが報告されている18)。
中でも,S. aureus(MSSAでもMRSAでも)菌血症とカンジダ血症(candidemia)では,そもそもカテーテルを温存した状態での治療失敗率が高く,遠隔病巣をつくりやすいため,いち早くソースコントロールが必要なことから,治療の原則は「全身性抗菌薬投与+カテーテル抜去」である4)。
例外的に,抗菌薬ロック療法(antimicrobial lock therapy:ALT)を併用することによって,カテーテルを抜去せずに治療できる可能性がある。ただし,この方法は,いくつかの注意点をクリアしたときのみに適応することが望ましい。
抗菌薬ロック療法(ALT)の併用効果
ALTとは,カテーテル内腔に高濃度の抗菌薬を一定時間留置し,内腔に形成されたバイオフィルム内の微生物の殺菌または増殖抑制を図る戦略である(表6)4)。全身投与のみでは届きにくいバイオフィルムを狙えるのが利点だが,当然ながらその効果はカテーテル内腔のバイオフィルムにのみ有効で,外表面に形成されたバイオフィルムには無効である。具体的には高濃度の抗菌薬をカテーテル内に注入して数時間留置し(12時間程度),そのあとに注入分を吸引してから静脈ルートを再使用するということを繰り返す。当然,ロック中は,そのルートを使用できなくなるというデメリットがある。

繰り返しになるが,CRBSIでは原則としてカテーテル抜去が望ましい。とはいえ,血液透析患者や終末期患者,小児,在宅患者など,カテーテルの抜去・再挿入のハードルが高い集団においては,ALTは現実的な選択肢でもある。
ALTの実際では,微生物ごとに対応が異なる。CoNSでは,もともとALTを併用しなくてもカテーテルを温存できる可能性があり,ALTの上乗せ効果はそこまで高くない可能性が示唆されている。一方で,GNRではALT併用によりカテーテルの温存が現実的に期待できるとされる。これに対し,カンジダ血症では原則としてカテーテル抜去が必要であり,残念ながら現時点ではALTを併用すればカテーテルを温存できるとする根拠は乏しい。そして,S. aureus菌血症もカンジダ血症と同様に,原則として抜去が勧められる20)。
また,抗菌薬を使用せずにエタノールのみでロックするというエタノールロック療法(ethanol lock therapy:ELT)もある。ALTと比べてもカテーテル温存効果に遜色はなく,バイオフィルム除去に有効だったという報告が散見されている21)。ただし,ELTはALTと比べるとカテーテルのトラブルが多いことや,現時点では日本において製剤の薬事承認や保険適用がないことから,実施している施設は限られている。
ALTを実践するには様々なコツが必要なので,理想的には,ALTを始める際は感染症専門医や経験のある薬剤師と相談し,薬剤濃度・留置時間・交換頻度・薬剤間相互作用などを確認した上で,実施することが望ましい。
なお,ALTを併用したとしても,72時間以内に血液培養が陰性化しない場合には,やはりカテーテル抜去が推奨される。
CRBSIに対する抗菌薬の選択と使い方
感染症治療の基本は,臓器診断のみで治療薬を選択するのではなく,微生物診断に基づいて治療薬を選択することにある。もちろん,中枢神経や眼など,臓器への薬剤の移行性を考慮すべき感染症もあるが,基本的には想定される微生物に応じて治療薬を選択する。CRBSIにおいても,他の感染症治療と同様に,治療初日には想定される微生物を広くカバーする抗菌薬を使用し〔経験的治療(empiric therapy)〕,後日,培養結果から原因微生物が判明したら,その微生物に適した治療薬に変更する〔標的治療(definitive therapy)〕(表7)。

原因微生物の頻度から考えれば,まずカバーすべきはCoNSとS. aureusなので,これらに活性のあるバンコマイシンが第一選択薬である。ただし,重症例や免疫不全例ではGNRの関与も考慮して抗緑膿菌作用のあるβラクタム薬を併用するほうがよい。また,中心静脈栄養施行時やICU滞在中,広域抗菌薬使用後,カテーテル長期留置などの背景があれば,カンジダ血症の可能性も考えられるため,その場合は,エキノキャンディン系抗真菌薬の併用も検討する。もちろん,empiric therapyで広域抗菌薬を開始したとしても,培養結果が判明したら可能な限り狭域の抗菌薬に変更(deescalation)すべきである。
※この記事は,FOCUS「深掘り! カテーテル関連血流感染症(CRBSI)診療」の一部を抜粋・編集したものです。