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【識者の眼】「自由と安全のバランスを考える思想」森川すいめい

登録日: 2026.06.30 最終更新日: 2026.06.30

森川すいめい (NPO法人TENOHASI理事)

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社会生態学者であり、「マネジメントの父」と呼ばれるピーター・F・ドラッカー(1909〜2005年)は、ドイツ系ユダヤ人の家に生まれた。1933年に発表した論文がナチスの怒りを買う可能性を危惧し、英国、そして米国へと移住した。ドラッカーはナチスによる全体主義の現実を目の当たりにし、著書『マネジメント』で「真に自律した組織だけが全体主義から私たちを守る唯一の手段である」と述べる。全体主義は排外的であり、その社会の外にいるとみなされた人々の人権や生命を奪う。

ドラッカーは、全体主義は過剰な自由から生じると指摘する。自由は一見すると肯定的な価値に見えるが、度を超えると強者が弱者を支配する社会を生む。判断基準や方針・政策は、強い者の都合や気分によって容易に変わる。リーダーの資質次第で社会全体が大きく左右される。こうした状況が全体主義の本質だ。

無秩序な状態から秩序を生み出すことは、安全を確保するための考え方である。しかし、秩序が行きすぎれば権威主義に陥る。権威を持つ側が安心を求め、ルールを細かく定める。規則が多くなることで変化への対応が難しくなる。組織内に階層ができて現場の声が上の立場に伝わらなくなるからだ。その結果、組織全体が硬直化し、ついにはトップでさえも何も決断できない状態に陥る。歴史的に見ると階層化が深まった先には最終的に革命が起こり、多くの人命が失われてきた。

自由は無秩序をまねき、やがて強者による支配につながる。一方で、安全を求めて管理体制が強まると、行きすぎれば組織が硬直化してしまう。

ドラッカーは全体主義を避けるために、組織の秩序を適切にマネジメントする理論を打ち立てた。その中心にあるのが「人こそが宝である」という考えである。人間中心のマネジメントを提案し、人にはそれぞれ異なるリズムやスピード、持久力、得意不得意があると考えた。組織には固有の使命があり、各人が自律した存在として自分のペースでこの使命をめざせるよう組織づくりがなされるべきだとしている。人を中心に据える一方で、組織運営の責任を個人の能力だけにゆだねず、一人ひとりが力を発揮しやすい環境づくりを重視した。

このマネジメントの考えは、日常的に自由と安全のバランスを保つ努力を組織に求めている。強いリーダーシップや過剰な秩序のようなわかりやすい手段に依存することなく、その両者のバランスが重要だとする。

現場の声が組織や政府に届かなくなる原因は、過剰な管理体制にある。こうした現状を受け、リーダーに権限を集中させようとする動きも生まれるが、それは最終的に全体主義へとつながる危険がある。

1つの答えがいつまでも正しいとは限らない。答えに固執すれば、変化する状況に取り残されてしまい、組織や考え方も変化に飲まれる。世界の変化に柔軟に向き合い、自由と安全のバランスを保とうとする絶え間ない努力の本質は、平和への願いなのだ。

森川すいめい(NPO法人TENOHASI理事)[ドラッカー全体主義自由と安全

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