ランダム化の吟味と同様に、バイアスの検討という視点に加え、不正予防という視点からガイドラインやAIについて考えると、どのようなことがみえてくるのだろうか。まず思い浮かぶのは、利益相反の問題である。利益相反は意識的な不正につながるだけでなく、無意識的な不正にも影響する。むしろ後者のほうが大きな問題かもしれない。利益相反のある委員がガイドライン作成に関与している現状や1)、そうした委員の存在がガイドラインの推奨内容に影響していることを指摘する論文もある2)。
ガイドライン作成者が特定の製薬企業から多額の研究費を受け取りながら、同時にガイドライン委員を務めることは決して珍しくない。ただし、その分野の専門家がガイドラインを作成する以上、利益相反のない委員だけで構成することは現実的に困難である。そうした限界の中で、ガイドライン作成者には利益相反の開示が義務づけられているが、実際には開示以上の対策が講じられていない場合も少なくない。利益相反の有無による推奨内容の違いを考慮したガイドラインを、筆者はいまだ見たことがない。これでは特定の薬剤や診療行為が過度に推奨される事態を十分に防げないだろう。
そこで考えられる1つのアイデアが、AIによるガイドライン推奨度の補正である。根拠となる論文の執筆者やガイドライン作成者の利益相反、さらには不正が生じる可能性を考慮し、推奨度を修正するAIである。さらに、AIそのものに利益相反を生じさせうる団体や個人が存在する場合には、それも補正因子として組み込み、AI自体の利益相反まで考慮した仕組みとするのである。
ここで最も困難なのは、不正の可能性をどのように計算するかという点だろう。実際にAIへこの問いを投げかけてみたところ、不正の意図そのものを見抜くことは困難であるが、一方で、不正が起こりやすい構造を同定し、不正リスクをスコア化することは可能であり、具体的なスコア算出法まで提示された。その全体を紹介することは誌面の都合上できないが、読んでみると納得させられる部分も多かった。実際にJikei Heart Studyをはじめとするディオバン事件についても、データ捏造そのものとは直接関係のない要素から、不正のリスクを予測できたという結果が示された。
事実が示すものは、真実、バイアス、偶然、不正の4つから成り立っている。そのすべてを考慮して検討するAIを活用したガイドラインが作成できれば、日々のEBMの実践もまた違った形になっていくのだろう。それがどのような姿になるのか、現時点ではまだ予測が難しい。しかし、その一方で大きな楽しみでもある。今後のガイドラインとAIの変化に注目したい。
【文献】
1) Norris SL, et al:PLoS One. 2011;6(10):e25153.
2) Nejstgaard CH, et al:Cochrane Database Syst Rev. 2020;12(12):MR000040.
名郷直樹(武蔵国分寺公園クリニック名誉院長)[EBM][ガイドライン][AI]