検索

×
絞り込み:
124
カテゴリー
診療科
コーナー
解説文、目次
著者名
シリーズ

【識者の眼】「健保法改正案に埋め込まれた行政裁量とその統制」森井大一

登録日: 2026.06.25 最終更新日: 2026.06.25

森井大一 (日本医師会総合政策研究機構主席研究員)

お気に入りに登録する

OTC類似薬の薬剤料の一部を保険給付外(一部保険外療養)とする健康保険法(以下、健保法)改正案が可決成立した(実は、本稿執筆時点でまだ成立していないが、政府提出法案であり、反対世論が強く喚起されるなどの特別な事態が起こらない限り、残念ながらこのまま可決成立する流れだ)。一部とはいえOTC類似薬を保険から外す問題は、既に各所で指摘されている通りであり、本稿で繰り返すまでもない。しかし、この改正にはもう1つ別次元の問題があり、国会審議でも与野党の委員から言及があった。筆者の見聞きする限り、一般の報道ではほとんど触れられていない、この“もう1つの問題”について本稿では取り上げたい。

一部保険外療養を認めた健保法改正では、新たに保険外とする対象を以下のように規定している。

要指導医薬品又は一般用医薬品との代替性が特に高い薬剤(=OTC類似薬)を用いた療養その他の適正な医療の提供を確保しつつ、公平かつ効率的な保険給付を行う必要性に鑑みその要する費用のうち一部を保険給付の対象としないものとする療養として厚生労働大臣が定めるもの

この規定(改正健保法第63条第2項第6号)を読み解く1つ目のポイントは、もともとある「柱書」と、新設された「第6号」の関係性だ。健保法第63条第2項は、まず柱書で「次に掲げる療養に係る給付は、(中略)給付に含まれない(後略)」と定めている。そして今回の改正で、第6号として「保険給付の対象としないものとする療養として厚生労働大臣が定めるもの」が付け加えられた。この2つを素直につなげて読むと、「厚生労働大臣が保険給付の対象外と定めたものは、給付に含まれない」ということになり、どこか禅問答のような不思議な味わいのある文章になっている。

2つ目のポイントは、「Aその他のB」という法的な構文の解釈だ。柱書にある通り、健保法第63条第2項各号は「保険給付から外すもの」を列挙する条文である。ここで「Aその他のB」という表現が使われた場合、新しく保険給付の対象外になるのは、Bである。Aはその1例にすぎない。したがって、実際に保険給付外となるのは「厚生労働大臣が定めるもの」すべてであり、これは、「何を保険給付外とするのか」の判断を行政の裁量にゆだねる規定である。

3つ目のポイントは、この行政裁量の要件が、かなりあいまいで緩いということだ。改正条文は「適正な医療の提供を確保しつつ、公平かつ効率的な保険給付を行う必要性に鑑みその要する費用のうち一部を保険給付の対象としないもの」となっているため、行政が裁量権を行使するための要件になるのは、「適正な医療の提供を確保しつつ」という部分だけになる。しかし、この「適正な」とは何だろうか。このような不確定概念によって、行政に広い裁量を認めることの危うさを考える必要がある。国会答弁や附帯決議では、「対象はOTC類似薬に限定する」といった注釈がなされているものの、答弁も附帯決議も法的な拘束力はない。

今後は、「多数派の世論」という政治的なルートを通じて、この行政裁量を統制していくことが何より重要になる。それ以外の手段としては、行政立法の限界として、健保法第63条第2項第6号の行政裁量は、他の条文との関係の中で覊束裁量であることを論じるより他ないだろう。

森井大一(日本医師会総合政策研究機構主席研究員)[健康保険法OTC類似薬

ご意見・ご感想はこちらより


1