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重症熱性血小板減少症候群(SFTS)はマダニ媒介性の新興ウイルス感染症で,近年,日本国内で発生地域が拡大しており,早期診断と迅速な治療体制の整備が急務である。主症状は高熱,全身倦怠感,悪心,下痢,リンパ節腫脹などである。重症例ではサイトカインストームや播種性血管内凝固(DIC),多臓器不全に進展する。
発症機序はインフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)と異なり,皮膚から侵入後,主にB細胞など免疫系細胞に感染し,ウイルス血症を介して全身へ拡散する。このため潜伏期が比較的長く,発症早期から高ウイルス血症・高サイトカイン血症を呈しやすい点が高致死率の一因と考えられる。
治療は病期分類に基づき,ウイルス増殖期にはファビピラビルを速やかに投与し,免疫介在期(サイトカインストーム期)にはステロイドなどの免疫抑制療法を併用する。特に発症5〜6日以内の早期投与が予後改善に重要である。
マダニ刺咬や感染動物との濃厚接触後には,ファビピラビルによる曝露後予防投与が合理的戦略として提案されている。副作用や薬価の課題はあるものの,公的備蓄の活用を含めた実用化体制の整備が望まれる。
1. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の現状と概要
重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome:SFTS)は,2011年に中国で初めて報告された新興ウイルス感染症である。わが国では2013年に初症例が確認されて以降,報告数は年々増加している1)。当初は西日本に限局していたが,近年では関東甲信越地方でも発生が認められ,2025年8月には北海道において初めて患者が報告された2)。今後,マダニ媒介によるSFTSは全国的に拡大する可能性が高く,わが国における予防・診療体制の整備は喫緊の課題である。
SFTSの主な感染経路はマダニによる刺咬であるが,感染動物(特にネコ)との接触や,感染患者との直接接触による院内感染も報告されている1)。主な臨床症状3)は高熱,全身倦怠感,悪心,下痢,リンパ節腫脹などであり,肺炎を呈しない点が特徴である。そのため,咳嗽や咽頭痛などの呼吸器症状は通常みられない。意識障害や出血傾向は重症化のサインである(表1)3)。出血傾向の症状としては,口腔内出血,消化管出血,血痰,針刺入部の紫斑などがあり,頭蓋内出血の報告もある1)。

検査所見としては,白血球減少,血小板減少,肝機能障害,CRP陰性~低値,フェリチン高値が特徴的であり,尿潜血はほぼ全例で陽性となる4)。確定診断は血液PCR検査により行われ,通常は地方衛生研究所で実施される。
治療法は長らく確立されていなかったが,2021年にSuemoriら5)は,ファビピラビル(商品名:アビガン®)を用いた多施設非ランダム化非対照単群試験において致死率17.4%を報告した。この成績は,わが国で従来報告されていた致死率(27~31%)より約10%低値であった。同年,Yuanら6)は単群試験,サーベイランス試験,ランダム化比較試験を含む統合解析により,ファビピラビル治療によって致死率が20.0%から9.0%に低下したと報告している。
Suemoriらの研究では発症6日以内の症例が対象であるが,Yuanらは治療開始が発症5日以内であれば有効性が高く,6日以降では効果が認められないと報告した5)6)。これらの知見をもとに,わが国ではファビピラビルがSFTS治療薬として世界で初めて承認された1)。
2. SFTSの発症メカニズム
SFTSの診療にあたっては,インフルエンザや新型コロナウイルス感染症(COVID-19)とは異なる発症メカニズムを理解しておくことが重要であるが,これは治療開始の遅れを防ぐ上でも不可欠である。
インフルエンザやCOVID-19は呼吸器を侵入門戸とし,気道上皮細胞を傷害することで,発熱,咽頭痛,咳嗽といった局所症状で発症する。潜伏期は比較的短い7)8)(表2)。COVID-19では,アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)を発現する上気道および下気道上皮細胞が感染標的となり,その後,ウイルス血症を介して全身のACE2陽性臓器に感染が拡大し,サイトカインストームにより重症化すると考えられている9)。

一方,SFTSウイルスはマダニ刺咬などにより皮膚から侵入し,主な標的細胞はB細胞である3)10)。局所リンパ節で増殖した後,ウイルス血症を介して全身臓器へと拡散し,高熱や全身倦怠感,筋肉痛などの全身症状として発症する。ウイルス血症を介するため,潜伏期は比較的長い11)。重症例では,発症時点で既に高ウイルス血症および高サイトカイン血症を呈していることが多く10),急速にサイトカインストーム,多臓器不全,播種性血管内凝固(disseminated intravascular coagulation:DIC),血球貪食症候群へと進展し,致死的経過をたどる。
なお,出血熱であるエボラウイルス病も侵入門戸は皮膚・粘膜であり,標的細胞が単球,マクロファージ,樹状細胞などの免疫系細胞である点,潜伏期が比較的長い点など,発症メカニズムはSFTSと類似している12)。
これらの発症機序の違いが,潜伏期の長短やサイトカインストームの発生時期,致死率5)12)13)に影響していると考えられる。