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【識者の眼】「プライマリ・ケアの視点から再考する産業保健」安藤明美

登録日: 2026.06.22 最終更新日: 2026.06.22

安藤明美 (安藤労働衛生コンサルタント事務所、東京大学医学系研究科医学教育国際研究センター医学教育国際協力学)

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産業医の原点でもある「工場医」は、戦後の劣悪な衛生環境のもと、十分な栄養も得られないまま過酷な労働に従事する人々の健康を守る役割を担っていました。その後、職場の医師には衛生管理を担う役割が求められるようになり、増加する労働災害への対応を目的として、現在の産業医制度が整備されました。

近代の労働災害では、メンタルヘルスの問題が大きな課題として注目されるようになり、産業医にも精神的な不調を抱える労働者への対応が求められるようになりました。しかし一方で、「産業医の仕事は労働環境の調整であり、個人要因への聴取は臨床行為だから避けるべきだ」といった極端な意見や、診断名をつけることが優先され、当事者への心理的配慮が十分になされないまま就業上の措置が進められるケースもみられました。

その結果、「産業医は企業側の味方」という印象を与えてしまい、患者さんを最もよく知る主治医との間で意見が食い違ったり、時には対立したりする事例も少なくありません。

私たちが直面している課題

今や働く世代の高齢化が進み、何らかの持病を抱えながら働き続けることが当たり前の時代となりました。現代医療がエビデンスだけでなく、「患者さん自身の価値観や人生の文脈」を重視するようになっているのと同様に、産業医にも労働者一人ひとりの「語り(ナラティブ)」に耳を傾け、「その人がどう生きたいか」という視点を持つことが求められています。

目の前の人の尊厳を大切にしてこそ、会社側の論理である安全配慮義務や経営上の課題との間で、建設的な対話が可能になります。これは決して「労働者への肩入れ」や「企業側の味方」といった二項対立ではありません。本人の生活背景や思いに耳を傾けることは、職域においても否定されるべきものではなく、むしろ支援の出発点となる大切なコミュニケーションだと考えています。

産業保健のこれから

日本の医療や産業保健の仕組みは独自の発展を遂げてきました。だからこそ、臨床医が日常的に実践しているプライマリ・ケアの視点を産業保健へ取り入れることが、今まさに求められています。

それは、職域が真の意味で地域医療・保健・福祉と連携し、「治療と就業を支え、その後の人生をも視野に入れて伴走する」ことにほかなりません。多様な働き方が広がるこれからの時代、産業医と主治医が分断されるのではなく、有機的につながることが必要です。

労使双方はもちろん、地域で診療に携わる先生方からも信頼される「これからの産業医のあり方」について、皆さまとともに議論を深めていきたいと思います。こうした内容を、日本産業保健法学会第6回学術大会において発表する予定です。お時間の許す皆さま、ぜひ現地で一緒に対話できれば幸いです。

安藤明美(安藤労働衛生コンサルタント事務所、東京大学医学系研究科医学教育国際研究センター医学教育国際協力学)[産業保健プライマリ・ケア産業医

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