先日、最新のAIモデル「Claude Mythos」がサイバーセキュリティの世界に衝撃を与えているというニュースに接した。このモデルはソフトウェアの脆弱性を自律的に発見する能力に特化しており、短期間で多数の重大な脆弱性を検出したと報じられている。その潜在的な影響力の大きさから一般公開は見送られ、限られた組織にのみ提供されているようだ。開発元のAnthropic社は、安全性や倫理面への配慮を重視する企業としても知られている。
筆者が3年前に書いた本連載「生成系AIと不気味の谷」(No.5173)では、「磨けば光るポテンシャルを持った新人」と生成系AIを評した。しかし、その後の進化のスピードには驚かされる。不気味の谷はとっくに超えているようだ。
また、4年前の本連載「説明可能なAIの必要性が高くなる」(No.5118)では、「医療におけるAI利用は適切な使い分けと距離感が大切になっていくのではないだろうか」と結んだ。当時はAIを、ツールとして管理しながら距離感を保って使うもの、と考えていた。しかし今や、その関係は仕事のパートナーとして伴走するものへと変わりつつある。今回のような自律型AIの登場は、さらにその先を行っているような感覚である。
それと同時に、こんなことも考えた。システムの脆弱性を自律的に発見するAIが、同様の能力で人体の「脆弱性」、つまり疾患の兆候や見逃されがちな病変のパターンを探索できるならどうだろうか。複数の検査値の組み合わせに潜む異常や、既存の診断名には収まらない身体の変化、これまでの医療では気づきにくかったものを、AIが先に「発見」する時代が来るかもしれない。
さらに、ライフログやパーソナルヘルスレコードのデータに遺伝情報も加われば、超早期診断も可能となる。医療は治療よりも予防へ軸足を大きく移すことになるだろうし、それらが自律的に行われるようになれば、医療そのものの構造も変わってくるかもしれない。そんな新たな医療の地平が開けてくる予感がある。
Mythosとは、論理だけでは説明のつかない根源的な真実を伝える「物語」のことだという。翻って医療を考えれば、患者の痛みや不安、その人が何を大切にしているかといった「物語」は、これからもMythosの領域にあると言えるだろう。
AIというパートナーと伴走しながら診断や予防の精度を高めていく時代になっても、その物語に向き合う医師の役割はむしろ際立ってくるのではないだろうか。
土屋淳郎(医療法人社団創成会土屋医院院長、全国医療介護連携ネットワーク研究会会長)[自律型AI][Mythos]