検索

×
絞り込み:
124
カテゴリー
診療科
コーナー
解説文、目次
著者名
シリーズ

【識者の眼】「1回5500万円のパーキンソン病治療薬」康永秀生

登録日: 2026.06.18 最終更新日: 2026.06.18

康永秀生 (東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授)

お気に入りに登録する

非自己iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞「アムシェプリ」(一般名称:ラグネプロセル)は、世界初のiPS細胞由来パーキンソン病治療用再生医療等製品である。既存薬で十分な効果が得られないパーキンソン病患者を対象に、定位脳手術によって被殻へ直接移植し、運動症状の改善をめざす。2026年3月に厚生労働省から「条件及び期限付承認」を受け、5月13日に中央社会保険医療協議会(中医協)で薬価収載が承認された。薬価は1回5530万6737円である。

素朴な疑問として、「なぜそんなに高いのか?」と思われた方も多いに違いない。薬価の算定方式には、基本的に類似機能比較方式と原価計算方式の2つがあり、再生医療等製品では原価計算方式が用いられる。再生医療等製品の製造原価には、研究開発費、細胞培養費用、品質管理費、GMP施設維持費などが含まれる。薬価は、製造原価に営業利益、流通経費、消費税などを加えた上で、画期性加算、有用性加算、市場性加算、先駆加算などの補正加算を適用して算出される。

画期性加算は、①臨床上有用な新規の作用機序を有すること、②類似薬に比して、高い有効性又は安全性を有することが、客観的に示されていること、③当該新規収載品により、当該新規収載品の対象となる疾病又は負傷の治療方法の改善が客観的に示されていること、という3要件をすべて満たした場合に算定される。有用性加算(Ⅰ)はこれらのうち2項目を、有用性加算(Ⅱ)は1項目を満たした場合に適用される。

また、市場性加算(Ⅰ)は、希少疾病用医薬品に対して算定される。市場性加算(Ⅱ)は希少疾病用医薬品には該当しないものの、市場規模が小さい製品に適用される。先駆加算は、医薬品医療機器等法に基づく先駆的医薬品等指定制度の対象品目に認められる加算である。

アムシェプリの場合、製品原価は約4282万円、営業利益は約362万円、流通経費は約25万円、消費税は約467万円であり、加算前の合計が約5136万円であった。製造原価を確保しなければ企業は赤字になるため、この部分が高額になること自体は現状ではやむをえない面がある。注目されたのは、どの程度の補正加算が認められるかであった。

本製品は「条件及び期限付承認」であり、現時点で有効性に関するデータが限られている。そのため画期性加算および有用性加算は認められなかった。一方で、希少疾病用医薬品として市場性加算(Ⅰ)10%は算定され、さらに世界に先駆けて日本で承認された点が評価されて、先駆加算10%が適用された。これはおおむね予想通りの評価であり、これらの加算を経て、最終的な薬価は5530万6737円となった。

高額療養費制度などを利用すれば、患者の自己負担は数十万円に抑えられる。一方で、残りは公的医療保険によって賄われるため、国民負担となる。このような高額製品を多数の患者に使用すれば医療財政への影響は大きく、対象患者が限定されるのは当然である。

製造販売元によれば、今後国内7施設で2029年頃までに35例のデータを収集し、本承認取得に向けた申請を行うとのことである。また、ピーク時の年間使用患者数は約130人と予測されている。患者数がこの程度であれば、医療財政への影響も限定的ではないだろうか。

康永秀生(東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授)[パーキンソン病医療財政薬価

ご意見・ご感想はこちらより


1