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【識者の眼】「つわり治療薬が治験へ」稲葉可奈子

登録日: 2026.06.18 最終更新日: 2026.06.18

稲葉可奈子 (産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)

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ドラッグ・ラグの1つである、つわり治療薬(ドキシラミン・ピリドキシン配合薬、海外商品名:Bonjesta)の国内での治験が、持田製薬により行われる見込みと報じられました。

つわりは妊娠中のQOLを著しく低下させ、重症化すると「妊娠悪阻」として入院加療を要することもあります。

海外ではドキシラミンとピリドキシンの配合薬(Diclegis/Bonjesta)が、その有効性と安全性のエビデンスに基づき、つわり治療薬として承認されています。一方、日本では「悪阻(妊娠中の悪心・嘔吐)」に対する適応で承認された薬はいまだなく、一般的な制吐薬などで代用されてきました。

海外で使えるつわり治療薬が日本では使えない、というのはかねてより課題となっており、今回の開発も日本産科婦人科学会の要望を受けて厚生労働省が公募したものです。

遅い、との批判もありますが、そこには事情があります。

1つは、妊婦を対象とした治験が困難であり、その設計に時間を要したことです。妊娠中の臨床試験は、胎児への影響が懸念されるため、他領域よりもハードルが格段に高いのです。その背景には、1950〜60年代の「サリドマイド薬害事件」の影響もあるかもしれません。つわり治療薬として販売された薬が胎児に催奇形性を引き起こした悲劇は、社会全体に妊娠中の薬物療法に対する強い慎重姿勢を生じさせました。

もう1つは、つわりは妊娠16週頃までには症状が消失することが多く、長期的に必要な薬ではありません。そのため、市場が大きいわけではないにもかかわらず、開発のハードルが高く、製薬企業にとってはコストが大きい一方で利益は限られる領域です。そこに着手して下さるのは、まさに社会貢献のためであり、参入が遅いと批判するのではなく、応援したいと思います。

実際の承認・販売はまだ先ですが、治験が着実に進行することは、将来の妊婦にとっての大きな希望となるでしょう。

なお、現状も、日本ではつわりの治療ができないというわけではありません。代用薬で症状を緩和することはできますので、つわり症状がつらい方は、かかりつけの産婦人科でご相談下さい。

稲葉可奈子(産婦人科専門医・Inaba Clinic院長)[産婦人科つわり治療薬

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