米国およびイスラエルによるイラン攻撃を契機に中東情勢が緊迫し、ナフサ由来製品の供給不安が生じている。日本には、1973年の第一次オイルショックを教訓として整備された石油備蓄制度がある。しかし、ナフサは法令上、「石油の備蓄の確保等に関する法律(石油備蓄法)」における指定石油製品に含まれるものの、「石油備蓄」がそのまま供給の安全弁となるわけではない。
国内で原油から精製されるナフサは約4割にとどまり、残り約6割は輸入に依存している。輸入分の相当部分は中東、とりわけペルシャ湾岸諸国に由来しており、ホルムズ海峡の地政学的リスクを抱える。さらに、国内精製分についても、その原料原油の多くを中東に依存しているため、輸入分・国産精製分の双方が中東情勢の影響を受けやすい構造にある。
この課題は、医療用資材、医薬品包装、さらには医薬品流通を支える物流資材にも及ぶ。軟膏容器、水剤ボトル、錠剤・カプセル剤の包装資材、一包化用包材などは、いずれも医療現場の日常業務を支える基礎的資材である。また、ストレッチフィルムやテープ、緩衝材などの一般物流資材の逼迫は、医薬品メーカーや卸の物流にも波及しうる。
政府は、ナフサ関連製品の不足を「流通段階の目詰まり」と表現しているが、一時的な流通混乱としてとらえるだけでは不十分である。ナフサは原油の種類や製油所の設備構成によって、得られる量に制約がある。加えて、日本では石油製品需要の減少を背景に、製油所数と精製能力の縮小が進んでおり、国内増産も容易ではない。したがって、短期的な調達・流通対策に加え、中長期的にナフサ依存そのものを低減していく必要がある。
脱ナフサは、地政学的リスクへの対応にとどまらず、医薬品産業の環境対策としても重要である。欧州では、医薬品産業に対してもplanetary healthの視点が求められるようになってきた。たとえば、2024年の北欧諸国における医薬品共同入札では、価格50%、環境対策30%、安定供給20%という評価配分が示されている。環境対策のすべてが脱ナフサを意味するわけではないが、石油由来プラスチックへの依存低減は避けて通れない課題である。
既に一部企業では、石油由来プラスチック包材から再生材やバイオマス素材への転換が進められている。しかし、素材置換だけでは限界がある。必要なのは、医薬品ロジスティクス全体の中で包装・包材のあり方を見直すことである。
長期的には、メーカー、卸、薬局、患者をつなぐ流通経路に沿って、包装の役割そのものを再設計する必要がある。品質確保、誤使用防止、トレーサビリティを前提としながら、過剰な個装や外箱、緩衝材を削減し、包材の簡素化、容器・包装規格の標準化、回収型物流容器の活用を進めるべきである。さらに、高度な医薬品物流を活用し、将来的にメーカーから患者宅へ直接配送が可能になれば、包装のさらなる簡素化も期待できる。医療機関・薬局向け包装と患者向け包装の分離も検討に値する。
短期的には、薬局で医薬品を小わけし、再包装して患者に渡すことを当然視してきた前提を見直す必要がある。医療現場側にも、安全性と利便性を維持しながら包材使用を減らす視点が求められる。一包化は服薬管理が困難な患者にとって有用である一方、必要性が必ずしも高くないケースでも実施されている可能性がある。服用回数に応じて7日分を一単位としたPTPシートを活用すれば、週単位で服薬状況を確認しやすくなり、一包化を一定程度減らせる可能性もある。
脱ナフサは、単なる包材素材の変更ではなく、医薬品包装と流通の革新を考える契機である。
坂巻弘之(一般社団法人医薬政策企画P-Cubed代表理事、神奈川県立保健福祉大学シニアフェロー)[ナフサ不足][医薬品包装][地政学的リスク]