Ⅰ.上腸間膜動脈症候群(SMAS)
上腸間膜動脈症候群(superior mesenteric artery syndrome:SMAS)は,上腸間膜動脈(SMA)と腹部大動脈との間隙が狭小化することで,この2つの血管の間に位置する十二指腸水平部(第三部)が圧迫され,通過障害をきたす疾患である。SMAは通常,腹部大動脈から約45~60°の角度で分岐し,その間にある後腹膜脂肪が十二指腸を保護している。しかし,栄養失調や急激な体重減少により脂肪組織が減少すると,角度は20° 以下,距離は2~8mmにまで狭くなり,十二指腸が圧迫される。
好発はやせ型女性や神経性食欲不振症(摂食障害)患者,脊椎側弯症術後,長期臥床患者,外傷後など多様であり,必ずしも一定の誘因に限られない。また,左腎静脈がSMAと大動脈の間で圧迫される「ナットクラッカー症候群」を伴うこともある。
▶診断のポイント
SMASの診断は,臨床症状と画像所見の両者を総合して行う。
臨床的には,食後の腹痛や膨満感,早期飽満感,嘔気・嘔吐,著明な体重減少が主症状である。特に胸膝位や腹臥位で症状が軽快することが特徴的である。慢性型では,間欠的にこれらの症状を繰り返し,るい痩や栄養不良が進行する。
画像診断では,立位単純X線で胃・十二指腸の拡張(double bubble sign),上部消化管造影で水平部での急峻な狭窄と造影剤の振り子運動が認められる。CT(造影)では,前述したようにSMAと腹部大動脈の間の角度が20°以下,距離が8mm未満であることが多く,脂肪組織の減少も確認される。超音波検査や内視鏡検査は補助的に行われ,腫瘍や癒着など他の器質的疾患の除外に有用である。
▶私の治療方針・処方の組み立て方
治療の基本は保存的治療であり,体重回復と腸管の減圧を目的として段階的に進める。初期対応では,絶食と輸液管理により全身状態の安定化を図り,必要に応じて胃管を挿入し減圧を行う。経口摂取が困難な場合は,経腸または経静脈栄養を導入することで,十二指腸周囲の脂肪組織の再生を図り,SMAの起始角(起始部と腹部大動脈の角度)の回復を促す。
内服治療としては,消化管運動促進薬(メトクロプラミド,モサプリド,ドンペリドンなど)を選択し,必要に応じて制吐薬やプロトンポンプ阻害薬(PPI)の併用も検討する。
なお,保存的治療に抵抗を示す症例や,早期の社会復帰を強く希望する症例に対しては,外科的治療を選択する場合もある。その適応は,保存的治療を一定期間実施しても症状改善に乏しい場合,または閉塞症状が再発・持続する場合に判断される。
