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【識者の眼】「社会的つながりと健康─見すごされてきた3つ目の柱」坂元晴香

登録日: 2026.06.05 最終更新日: 2026.06.05

坂元晴香 (聖路加国際大学公衆衛生大学院学際健康科学分野客員准教授)

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孤独および社会的孤立は、近年、独立した健康リスク因子として急速に位置づけられている。臨床現場では、患者の対人関係や社会的環境は副次的情報として扱われがちであった。しかし、疫学的・生物学的知見の蓄積により、社会的つながりの量と質が、様々な疾患の罹患リスクや予後を規定する要因であることが明らかになりつつある。WHOも「社会的つながりに関する委員会(Commission on Social Connection)」を設置し、関連報告書を公表するなど、国際的にも注目が高まっている。

概念上、孤独(loneliness)と社会的孤立(social isolation)は区別される。孤独は「つながりが不足している」と感じる主観的状態であるが、社会的孤立は社会的接触が客観的に乏しい状態を指す。両者は重なりうるが、独立して健康へ影響することが示されており、孤独であるという自覚がなくても、社会的孤立そのものが健康リスクとなりうる。

WHOの報告書では、世界で6人に1人が孤独を経験していると推計され、関連死亡は年間約87万1000人、1時間当たり約100人に相当するとされる。また、13〜17歳では20.9%が、18〜29歳では17.4%が孤独を経験しており、若年層でも頻度が高い点は重要である。孤独は高齢者特有の問題ではない。

健康影響に関するエビデンスも集積している。社会的つながりの乏しさは、冠動脈疾患リスクを約29%、脳卒中リスクを約32%上昇させ、認知症、うつ病、自殺企図とも関連することが報告されている。全死亡への影響は喫煙や肥満、高血圧に匹敵する、あるいは上回るとの指摘もあり、WHOは社会的つながりを身体活動や食事と並ぶ「健康の柱」のひとつとして位置づけている。

臨床上の含意も小さくない。独居高齢者、原因特定が困難な身体症状を反復する患者、家族との死別後にHbA1cや血圧のコントロールが悪化する症例などでは、背景に社会的つながりの稀薄化が介在している可能性がある。生活歴聴取に「日常的に交流のある相手の有無」「困難時に頼れる人の存在」を加えるだけでも、患者理解の幅は広がる。

社会的つながりに関する委員会では、政策・研究・介入・測定・パブリックエンゲージメントの5領域における行動を提言している。政策面では、孤独・孤立対策を保健分野に限定せず、都市計画、教育、労働などを含む分野横断的政策として統合することの重要性が示されている。研究面では、関連エビデンスの体系的蓄積や国際比較の推進が求められている。介入面では、ライフコース全体を対象とした孤独・社会的孤立への介入ガイドラインの整備が進められている。

また、測定面では、各国共通の「社会的つながり指標」の開発を通じ、従来は定量化が困難であった「つながりの量と質」を国際的に比較可能な形で可視化する方針が示されている。そして、パブリックエンゲージメント面では、当事者による発信や社会的対話を通じて、社会規範の転換が試みられている。

日本では2021年に孤独・孤立対策担当大臣が設置され、2024年4月に「孤独・孤立対策推進法」が施行された。孤独・孤立対策を国家的課題として制度化している点で、日本は国際的にみても先行的な対応を進めている国のひとつと言える。

孤独は、個人の文化的背景や性向に関わる側面をもつ一方で、臨床的・公衆衛生的課題でもある。個人の特性へ還元されがちな問題を、構造的・社会的観点からとらえ直す視座が、今後の一般診療においても求められる。

坂元晴香(聖路加国際大学公衆衛生大学院学際健康科学分野客員准教授)[社会的つながり孤独社会的孤立

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