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【識者の眼】「医療における『労働生産性』について」村上正泰

登録日: 2026.06.04 最終更新日: 2026.06.04

村上正泰 (山形大学大学院医学系研究科医療政策学講座教授)

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財務省は、2026年4月17日に開催された財政制度等審議会財政制度分科会の資料の中で、医療・介護産業では過去30年間、労働生産性が低下しており、「より少ない労働投入量で質の高いサービスを提供可能とするなど、効率的で持続可能な産業構造への転換が不可欠である」との主張を展開している。

今後、人口減少が加速し、社会全体での労働力制約がよりいっそう強まることや、医療・介護従事者の勤務環境改善の必要性を考えれば、医療・介護産業でも省力化が不可欠だという結論自体には、私も同意見である。しかし、ここで問題にしたいのは、医療・介護産業で労働生産性が低下しているとの批判は、はたして妥当なのかという点である。

財務省は、労働生産性を「実質付加価値額÷(就業者数×平均労働時間)」によって算出している。労働生産性を実質付加価値額で評価する場合に注意が必要なのは、診療報酬や介護報酬は公定価格であり、労働生産性の測定結果は政府による価格設定に依存するからだ。これまでの30年間を振り返ると、診療報酬は本体が引き下げられたこともある。また、プラス改定の場合でも、引き上げ幅はかなり抑制的であった。診療報酬をもっと引き上げれば、計算上、労働生産性も上昇する。財務省は診療報酬の引き上げを認めるのかと、嫌味を言いたくもなる。

そもそも、労働生産性を実質付加価値額で評価することには問題が多いのである。それでは、実質付加価値額ではなく、生産量で計測するとどうだろうか。医療の場合、生産量は患者数に相当する。他産業と比較すると、医療は労働集約型産業であり、人手を多く必要とする。しかも、過去30年間で需要の大幅な増加が生じた点でも他産業と異なる。医療への労働投入量の増加は必然的現象であった。

他方で、国際比較をすると、よく指摘されるように、わが国は病床数が多く、外来受診回数も多い。すなわち、手薄なスタッフの配置で多くの患者を診ているのである。したがって、患者数で計測した生産性は高いと見ることもできる。しかし、こうした状況が望ましいわけではない。これ自体はむしろ大きな問題であり、医療提供体制改革が求められる所以でもある。

また、近年、在宅医療の充実が図られているが、移動時間なども考慮すると、入院医療と比較して、同じ数の患者を診るにも多くの時間が必要になる。しかし、在宅医療に比べて生産性が高いと言って、社会的入院を正当化することはできない。いずれにしても、患者像や治療内容、さらには医療の質なども含めて評価しなければ、意味がない。

財務省は、製造業では30年間で労働生産性が90%超上昇したとしているが、対人サービスで成り立つ医療や介護を、製造業と同列に比較することはできない。なお、著名な経済学者であるウィリアム・ボーモルは、「コスト病」と呼ばれる理論を提示したことで知られる。コンピューターなどの物的製品を生産する部門では、労働生産性が上昇する一方、舞台芸術、教育、医療などの対人サービス部門では労働生産性が上昇せず、人件費が増加する。それでも「支払い不可能にならない」と主張したのがボーモルである。「コスト病」理論に照らせば、製造業と医療・介護産業の生産性格差は問題ではない。

村上正泰(山形大学大学院医学系研究科医療政策学講座教授)[労働生産性医療政策

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