検索

×
絞り込み:
124
カテゴリー
診療科
コーナー
解説文、目次
著者名
シリーズ

【識者の眼】「EBM、ガイドライン、AI⑨─隠蔽の軽視と悪の隠蔽の強化」名郷直樹

登録日: 2026.06.01 最終更新日: 2026.06.01

名郷直樹 (武蔵国分寺公園クリニック名誉院長)

お気に入りに登録する

臨床試験の歴史において、交絡因子の排除と不正防止のためには、ランダム化と同時に「割付の隠蔽」が重要であることが示されてきた。にもかかわらず、これまで強調されてきたのは主として前者であり、後者については現在に至っても十分に議論されているとは言いがたい。

しかし、医師や医学研究者も不正を行いうる存在であることは、歴史が繰り返し示してきた事実である。さらに、近年では、その背後で何が起こっているのか見えにくいAIも日常的に利用されるようになっている。その結果、ランダム化比較試験における割付の隠蔽は軽視され続ける一方で、「悪の隠蔽」を行いやすい環境が強化されつつあるようにも見える。

不正防止策のひとつである割付の隠蔽については、臨床試験の分野でも一定の対応が行われている。ランダム化比較試験の報告指針であるCONSORT声明1)では、チェックリストの中に“Allocation concealment mechanism”という項目が設けられ、論文に記載すべき標準項目となっている。これによって、ランダム化比較試験を行う研究者が隠蔽の重要性を再認識する契機になれば望ましい。しかし、何十年も軽視され続けてきた問題意識が大きく変わるとは考えにくい。

また、ガイドライン作成の標準的手法であるGRADEアプローチ2)においても、CONSORT声明と同様に、採用論文のバイアスリスク評価項目の中に“Lack of allocation concealment”が含まれている。ただし、これは最終的なバイアスリスク評価の一項目として埋没しやすく、多くの医師や研究者の意識を変えるまでには至っていないように思われる。

さらに、現在では、ランダム割付自体が各医療施設とは独立した機関で実施されることも多く、結果として、研究者が意識しなくても割付の隠蔽が担保される仕組みが一定程度整備されている。しかし、悪に対する対策を講じなければ不正が起こるという歴史をふまえれば、チェックリストに項目を追加しようが、独立機関で割付を行おうが、それをかいくぐって不正を行う者は今後も現れるだろう。

むしろ、不正防止のためにガイドラインやAIを利用するというより、ガイドラインに圧力をかけたり、AIを悪用したりする者が現れるほうが自然ですらある。

ここで改めて強調したいのは、医師や医学研究者に対する「性悪説」に基づく対策の必要性である。特に、ガイドラインやAIの設計・運用レベルで、いかに性悪説に基づいた対策を組み込むかを議論することは、ランダム化が交互割付で代用されたり、割付の隠蔽が軽視され続けたりしてきた歴史を振り返る上でも、重要な意味を持つ。

不正を予防し、悪を見抜くガイドランとは何か。不正を見抜くAIとはどのようなものか。ガイドラインを読み、AIを利用しながら、改めて考えてみたい。

【文献】

1) Hopewell S, et al:Nat Med. 2025;31(6):1776-83.

2) Guyatt GH, et al:J Clin Epidemiol. 2011;64(4):407-15.

名郷直樹(武蔵国分寺公園クリニック名誉院長)[EBMガイドラインAI

ご意見・ご感想はこちらより


1