2026年、当院では事務部門の管理職向けに生成AI「Claude」を導入しました。活用状況を見ながら、今後は一般職員にも展開していく予定です。
導入して率直によかったと感じるのは、「先送りにしていた“ちょっと面倒な仕事”が片づくようになった」ことです。規則やマニュアルの改定、各種帳票の修正など、作業時間が確保できず後回しになっていたドキュメント類が、驚くほど短時間で、しかも相当の精度で作成できるようになりました。
また、データ分析も大幅に効率化しました。「こういう分析をしたい」と伝えると、一気にコードを生成してくれるため、コードを書く時間だけでなく、そのための学習時間も短縮できました。余談ですが、これまでデータ分析にはR言語を使っていましたが、生成AI導入を機に、汎用性や処理速度の観点からPythonへ移行しました。Pythonを勉強し直す時間がなく、何年も放置していたのですが、まさか自分で学び直さなくても移行できる時代が来るとは思ってもいませんでした。
一方で、「生産性が劇的に変わった」とまでは言いがたい面もあります。ドキュメントができても、院内で合意形成する手間は何も減らないからです。会議を開き、関係者と協議し、運用に乗せて定着させる─そのプロセスは、生成AIを導入しても以前と変わりません。「たたき台をつくる時間」は節約できても、「人を動かす時間」は節約できない。管理部門の仕事の本質はそこにあるのだと、改めて気づかされました。
導入に際しての注意点についても、いくつか紹介したいと思います。
まず、重要なのは、情報セキュリティです。法人契約のプランでは、入力データが生成AIの学習に利用されない仕様となっています。しかし、患者の個人情報はもちろん、未公表の収支データや人事情報などの経営上の機微情報については、それでも慎重な取り扱いが必要です。
この問題への対応として、当院では「ツールはOK、データはローカルに」という方針を採っています。たとえば、DPCデータを分析する場合であれば、AIには「こういう計算をするプログラムをつくって」とだけ指示し、実際のDPCデータは自分のPC内に保存したまま、生成されたプログラムをローカル環境で実行する。つまり、AIに渡すのは処理の“設計図”だけ、という考え方です。
次に、AIへの依存と検証の問題です。自分が理解していないことを、AIに丸ごと肩代わりさせることはできません。プログラムを書かせると、AIはもっともらしい提案をしてきますが、内容をよく見ると首を傾げたくなる実装も少なくありませんでした。また、エラー修正の場面でも、「原因を正確に特定できていないまま、見当違いの方向にコードを書き換えていく」という現象が何度も起きました。生成物の適否を最終的に人間が判断できることが、活用の絶対条件です。
生成AIは、「何でも任せられる万能の部下」ではありません。①生成AIと人間の役割分担を認識すること、②機微情報の取り扱いルールを整備すること、③アウトプットの妥当性を自ら検証すること─この3点を押さえることが、活用の出発点になるのだと思います。
藤田哲朗(医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長、医療経営士1級)[生成AI][業務効率化]