2026年度診療報酬改定の内容が明らかとなり、多くの医療機関では対応を急いでいるものと思われる。高齢入院患者が多い当院で注目している項目のひとつが、「身体的拘束最小化」に関する改定である。
2024年度診療報酬改定では、入院料の通則として、組織的に身体的拘束を最小化する体制整備が求められた。当院でも通則に沿って身体的拘束最小化チームを立ち上げ、身体的拘束の実施状況の把握、緊急やむをえず身体的拘束を行った場合の必要事項の記録、定期的な研修会の実施などに取り組んできた。
2026年度診療報酬改定では、身体的拘束最小化の「実績等に係る基準」が新設され、身体的拘束の実施割合として15%以下が要件となった。さらに、基準を満たせない場合には入院料の減算対象となることが示されており、医療機関経営にも影響を及ぼす内容として、現場では対応が急務となっている。
高齢化が進む地方の病院では、85歳以上の入院患者が増加している。その多くは要介護状態で、医療と介護の双方のニーズを抱えている。さらに、多疾患併存や認知症を有する患者も少なくない。入院後にせん妄状態となり、対応に苦慮するケースも多く、入院医療の現場が混乱に陥ることもある。
点滴ラインや挿入チューブの自己抜去、ベッド離床時の転倒・転落、病棟内の徘徊、暴言・暴行などにより、治療や処置が円滑に進まない状況もしばしば見受けられる。安全な治療を遂行するため、緊急やむをえない場合には、身体的拘束の3要件である「切迫性・非代替性・一時性」を確認した上で、全身状態を十分に観察しながら身体的拘束を行うケースがある。また、不要となった場合には速やかに中止することが大前提である。
一方で、身体的拘束が患者の尊厳を損ない、身体機能のみならず生活の質(QOL)の著しい低下につながることを、我々医療者は十分に認識しなければならない。拘束がさらなる拘束を生む悪循環は避ける必要がある。診療報酬上の減点を回避するためだけに取り組むのではなく、患者の尊厳を守るために身体的拘束最小化へ努力を重ねる姿勢が求められている。また、「身体的拘束をせずに治療を行ってほしい」という患者家族の思いに寄り添う医療を実践したいものである。
高齢化が進む地方の病院では、高齢入院患者の増加によって、最前線でケアを担う看護師の業務は複雑化している。精神的・身体的負担も大きく、離職者の増加も懸念される。「身体的拘束最小化」の推進は、医療の担い手が不足する地域医療の現場においてきわめて難しい課題である。しかし、今回の診療報酬改定を契機として、地域全体でこの課題解決に向けて積極的に取り組んでいく必要がある。
小野 剛(横手市病院事業管理者、全国国民健康保険診療施設協議会会長)[身体的拘束最小化][診療報酬改定]