検索

×
絞り込み:
124
カテゴリー
診療科
コーナー
解説文、目次
著者名
シリーズ

【識者の眼】「湿布薬は保険から外すべきである」康永秀生

登録日: 2026.05.22 最終更新日: 2026.06.01

康永秀生 (東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授)

お気に入りに登録する

本稿を執筆している2026年4月28日、健康保険法等の改正案が衆議院本会議で可決された、というニュースを目にしている。湿布薬やかぜ薬などの「OTC類似薬」約1100品目について、薬剤費の4分の1を「特別の料金」として自己負担に上乗せする内容で、2027年3月からの開始が予定されている。低所得者、がん・難病患者、入院患者、薬の長期使用が必要な患者などについては配慮措置が検討されているものの、詳細は法案成立後に詰められる見込みである。

OTC類似薬とは、医療用医薬品として処方されている一方で、同じ有効成分・効能を有する市販薬が存在する薬である。湿布薬はその代表格とされる。しかし、実のところ、湿布薬は他のOTC類似薬と比べるとかなり異質な存在である。私見ではあるが、湿布薬を他のOTC類似薬と同列に扱い、「薬剤費の4分の1を自己負担に上乗せする」という対応はアンバランスに思える。慢性腰痛等に対する湿布薬は、いわゆる「低価値医療(low-value care)」に該当し、保険給付の対象から外して全額自己負担とするほうが妥当ではないかと考える。

実際、慢性腰痛に対する湿布薬(外用NSAIDs)の効果を検証した臨床試験はいくつか存在する。日本で行われたプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験では、ジクロフェナク150mg貼付群とプラセボ貼付群の間で、visual analog scaleの差は−5.67(95%信頼区間:−9.34〜−2.00)であった。統計学的有意差は認められたものの、臨床的意義は乏しいと解釈される。海外の臨床試験でも同様に、慢性腰痛に対する湿布薬の効果は、「ほとんどない」か「あってもわずか」とされている。

ところで、厚生労働省の社会保障審議会・医療保険部会は、2025年11月、(神経障害性疼痛を除く)腰痛症に対するプレガバリン処方の適正化を論点として取り上げている。もっとも、私見を述べれば、プレガバリンだけを槍玉に挙げるのはやや解せない。叩きやすいとこから着手した、という印象も否めない。プレガバリンの市場規模は年間60億円程度とされる一方、医療機関で処方される湿布薬は、試算に幅はあるものの年間1000億円超とも言われる。財政インパクトを考慮するなら、本丸は湿布薬ではないだろうか。

周知の通り、日本は「湿布大国」である。保険適用であるため、患者にとっては安価に入手しやすい。プラセボ効果を上回る効果は乏しいにもかかわらず、客観的な臨床効果と患者の実感との間には乖離がある。湿布薬を処方された患者は、「安心の価値」という無形便益(intangible benefit)を得ることができ、実際、患者満足度も高い。

医師にとっても、内服NSAIDsは一定の効果が期待できる反面、副作用の問題があり、高齢者には使いにくい。一方、湿布薬であれば、効果への期待はともかく、比較的安心して処方できる。こうした背景が、日本独特の「湿布文化」を醸成してきたのだろう。

この現状を変えるには、「医療機関で処方してもらったほうが得」というインセンティブ構造をなくすほかない。患者の健康アウトカム改善にほとんど寄与しない薬剤に、国民が支払う保険料や税金を投じられ、その結果として製薬企業が潤うというサイクルは、そろそろ見直されるべきではないか。

仮に湿布薬が保険適用外となれば、これまで患者が得ていた「安心の価値」は、ある程度損なわれるだろう。もっとも、湿布薬は必需品ではないため、全額自己負担となれば、患者は可処分所得に応じて購入量を調整するはずである。使用頻度は低下し、残薬の問題も一定程度改善するかもしれない。

患者満足度は多少低下する可能性がある。しかし、健康アウトカムへの影響は、「ほとんどない」か「あってもわずか」にとどまると考えられる。製薬企業の売上は減少するだろうが、それは「適正化」とも言える。勤労世代が負担する社会保険料も、わずかながら軽減されるかもしれない。社会全体の視点から見れば、湿布薬の「保険外し」は、必ずしも悪い話ではない。

康永秀生(東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授)[OTC類似薬低価値医療

ご意見・ご感想はこちらより


1