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院内での無断録音は裁判で証拠として認められるのか【適用シーンから学ぶ医療関連法】

登録日: 2026.05.28 最終更新日: 2026.05.28

越後純子 (弁護士・医師)

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日常診療の中には,医療者が当たり前にやっていることであっても,法律的にはリスクのある行動が多くあります。そんな日常診療に潜む法的なリスクを,弁護士と医師のダブルライセンスを持つ著者が対話形式のCaseを通してわかりやすく解説した『日常診療に潜む法的リスク 適用シーンから学ぶ医療関連法』(越後純子著)から一部を抜粋・編集して紹介します。

院内での録音は禁止できる?─録音,写真・動画撮影等

多くの医療者から「患者から録音を求められた場合に,断れないのか」という相談を多く受けます。しかし,もっと怖いのは,デバイスの進化によって録音されていることに気づいていないという状況です。ほかにも,写真,動画撮影(以下,これらの一部またはすべてを総称して「撮影等」)も容易になっています。画像は,音声に比してインパクトが大きいので,考慮要素も必然的に異なります。それぞれ,シーンに応じて検討していきます。

Case 無断録音と裁判

がんの外来化学療法中の患者A。夕方になって高熱が出たので,深夜,かかりつけの病院に電話した。かかりつけの病院は東京で,患者Aは隣接県に在住。
看護師Bは,かかりつけ病院の救急外来担当看護師。

シーン①:電話での問い合わせ

患者A:今朝から,だるい感じがしていたのですが,夕方から急に寒気がしてきて,震えもあって,体温を測ったら39.2℃ありました。今から,受診できますか?
看護師B:先生に確認してみますね。(医師に確認後)Aさんは化学療法中の高熱なので,一刻を争う危険な状態だそうです。Aさんのお住まいは……。
患者A:○○市です。
看護師B:かなり病院から遠いですね。しかも,県が異なるので,救急車の対応が難しいかもしれません。緊急の状態なので,救急車で近隣の救急病院を受診されることをお勧めします。
患者A:でも,かかりつけではない病院は,私の病状をわかってくれていないので,心配です。なんとか,そちらで診ていただけませんか?
看護師B:生命にかかわることなので近隣の病院での受診をお願いします。
患者A:そこをなんとか。行けば診ていただけるのですよね。
看護師B:そうですね。いらっしゃれば,お断りすることはないです。

シーン②:救急外来での会話

家族に付き添われて自家用車で来院した患者Aは治療の甲斐なく死亡。
遺族は,突然のことで受け入れきれず,泣き崩れている。
遺族に対し,担当医Cから病状説明が行われた。

担当医C:我々も最善を尽くしましたが,敗血症が急速に進んで,来院されたときは既に手遅れの状態でした。力及ばす,このような結果になってしまい,大変残念です。もう少し早くいらしていただけたら,結果は違ったかもしれません。
遺族D:もっと早く来院していれば,助かったんですか?なぜ,Aが電話したときに,救急車でもっと早く来院するように指示しなかったんですか。それってそちらのミスですよね。

その後,遺族から病院が訴えられた。裁判の中で,シーン①のうち下線部の会話を除いた録音記録が,病院が緊急来院を促さなかった証拠として遺族から提出された。

▶Focus Point
裁判で証拠として認められるのか

● 無断録音について

しばしば,無断録音について,裁判で証拠として認められないのではないかと尋ねられます。話を聞いていた本人がその場にいて,記録として録音したものであれば,自分でとったメモと同じ扱いなので,基本的には証拠として認められます。他方,録音者がいないところで録音機器を置いておく無断録音,いわゆる盗聴したものについては,証拠として認められにくいです。
医療者の立場としては,患者が自分の発言を録音しなければならないということ自体,信頼関係の基礎がないように感じるでしょう。また,録音されていると思うと説明内容がぎこちなくなってしまいがちなので,できることなら断りたいという気持ちはとてもよくわかります。
しかし,裁判で認められてしまうということを前提にすると,「断ることの意味」という点から考えてみる必要があります。まず,患者が録音したい理由を考えてみます。いろいろな場面があり,一概には言えませんので,シーンに応じて考えていきましょう。
インフォームドコンセントのための手術の説明など,込み入った病状の説明をする場合ですが,手書きでメモをとることは制限できないという点は,皆様ご納得のことでしょう。患者側としては,1回聞いただけでは十分に理解できないので,メモ代わりに録音して後から聞き直したい,説明に同席できなかったほかの家族らにも聞いてもらって相談したい,などという場合があります。
人の記憶はあいまいなものです。自分の理解できる範囲しか記憶に残らず,自分に都合の悪いことは無意識に排除されがちです。特に,重大な病気を宣告される際には,医療者が想像する以上に心理的に追い詰められ,不安定な状態になっており,無意識に自分に引き寄せた内容で理解されがちです。このような状況で,結果が患者の意図するものではなかった場合,「言った」「言わない」の水かけ論になることがしばしば経験されます。
また,医療事故などにより,既に信頼関係が崩れていて,言質をとる証拠として使いたいと思っているような場合もあります。
いずれの場合においても,自らの肉声も個人情報に該当しますので,医療者がその観点を強調すれば断ることは可能です。しかし,無断で録音されていることが多々ありますので,効果的とは言えません。日頃から録音されていると思って,話をするほうが無難です。自分が記録される側になると,身構えて敏感に反応してしまいますが,ボイスメモなどの音声入力などが普及している昨今では,手書きメモの代わりということも日常的です。
特に信頼関係が崩れた状況下で無断録音されてしまうような場合,相手方だけが録音していて,自らの手持ちがないと,相手に都合のよいように編集されても,反論できなくなってしまいます。医療機関側でも記録のために録音しておく旨を断って,双方で録音しておくことを推奨します。電話の記録をすべて録音しておくことは難しいかもしれませんが,少なくとも救急外来での電話対応の記録は残しておくことを強く推奨します。

まとめ
● 無断の録音であってもその場に居た当事者が録音したものであれば裁判の証拠として有効
 常に録音されていると思って説明をするように心がける
 状況に応じて医療機関側での録音も

(本稿は,越後純子著『日常診療に潜む法的リスク 適用シーンから学ぶ医療関連法』の一部を抜粋・編集したものです。)


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