日本海に浮かぶ隠岐諸島。その島前地域の中ノ島にある島根県立隠岐島前高校は、本土から船で約3時間の場所にある海士町に位置する。海士町は一度、財政破綻の危機に直面したが、そこから見事にV字回復し、今もなお新しい挑戦を続けている。全国各地から多くの人が視察に訪れる町としても有名だ。
この町では「教育魅力化プロジェクト」という革新的な取り組みが行われてきた。人口減少から高校の存続も危ぶまれる中、プロジェクトメンバーの1人は「高校がなくなるということは、その世代の親たちも外に出るということだから、様々なことを試すしかなかった」と教えてくれた。
現地で話を重ねれば重ねるほど、その柔軟な発想と、何より高校生たちへの信頼を感じることができる。プロジェクトのひとつとして、「失敗を称え合う学校」というスローガンが掲げられた。この取り組みは2022年にスタートし、同年10月13日にはフィンランドにならい「失敗の日」が制定された。この日は、失敗を称え合い、挑戦することが後押しされる。
日本の社会では、失敗をすると非難や謝罪を求められたり、取り返しのつかない状況へ追い込まれたりしがちではなかろうか。もちろん「失敗は成功の母」と言われるとおり、失敗しない選択ばかりしていては、学びも革新も生まれない。このような風潮は学校にも影響する。生徒たちの失敗を避けるために校則で縛り、多くの人はその社会で成功するために受験勉強に励む。
そんな中、隠岐島前高校では「失敗の日」を定め、その日は皆で失敗を称え合うことにした。これは既存の社会文化そのものに問いを置く試みである。たとえ失敗しても誰かに怒られる心配はなく、むしろ挑戦そのものを認めあう日。生徒にとって、これは大きな経験となるだろう。それは先生や保護者にとっても同じに違いない。
実際にこの高校を卒業した方に「失敗の日」について話を聞いてみると、「あ、その日はそんなに」と話す。私は大きなイベントだと思っていたので少し驚いたが、その方はすぐに「スローガンが『失敗を称える』だから、1年中がそう」と続けた。
「失敗を称え合う」という姿勢は、生徒たちへの信頼の現れでもあるだろう。生徒は安心して挑戦することができるようになり、自分自身を試す。ある先生は「私たちも生徒から教えられることが多かった」と語る。生徒たちで様々なことを決めることへの不安は徐々に薄れ、生徒たちは挑戦しながら学びを深めていったという。
卒業後は多くの生徒が島の外に出て大学へ進むため、高校生活と島の外の社会生活とのギャップに戸惑うこともあると聞いた。しかし、卒業生の1人は、「友人たちは自分で考える力を持っているため、その変化の中でも自分らしい生き方を選択しようとしている」と教えてくれた。
この教育魅力化プロジェクトの取り組みは、現在では小中学校にも広がりはじめている。
森川すいめい(NPO法人TENOHASI理事)[精神科][失敗の日]