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【識者の眼】「雑巾から考える、医療DXの“順番”」藤田哲朗

登録日: 2026.04.27 最終更新日: 2026.04.27

藤田哲朗 (医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長、医療経営士1級)

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毎年、年度替わりの時季になると、子どもが通う保育園から、園児が共同で使用する物品の提出を求められます。ティッシュペーパーやポリ袋などに混じって、1つだけ厄介なものがあります。それが「雑巾」です。

この雑巾は、「未使用の白いタオルを使用」「指定の折り方・縫い方」と、仕様が細かく決められています。我が家にミシンはないため、5枚の雑巾を1時間半ほどかけて手縫いしました。ほかの共同使用品は、ドラッグストアで購入するだけですむため、雑巾だけが突出して保護者の負担になっているのが実情です。正直なところ、「市販品ではダメなのか」「園で外注して費用を請求してくれればよいのに」という思いが頭をよぎります。

ただ、このルールができた当時は、このやり方が合理的だったのだろうとも推測します。頂き物のタオルが各家庭にあり、家庭用ミシンも普及していて、手づくりのほうがコストを抑えられた時代の名残ではないでしょうか。しかし、令和の現在においても、これがベストかどうかは、再考の余地があるように思います(念のため補足しますが、手縫い雑巾のこと以外に不満はなく、きょうだい3人、通算10年お世話になっている最高の保育園です)。

さて、この話を医療現場における「DX」に重ねると、多くの示唆が得られます。近年はDX推進が盛んですが、よく見られるのが「既存業務をそのままソフトウェアに置き換える」というアプローチです。紙の書類をPDFにする、電話連絡をチャットに置き換える、手書き台帳をExcelで管理する。これらは媒体こそ電子化されていますが、業務プロセス自体は変わっていません。その結果、システム導入コストや運用負担だけが増え、「DXの効果を実感できない」という声が現場から上がります。これは、雑巾を手縫いからミシン縫いに変えただけで、本質的な負担軽減になっていない状況に似ています。

DXにおいて重要なのは、「このプロセス自体、本当に必要か?」と問い直すことです。かつては合理的だった方法が、時代や技術の変化によってベストではなくなることはめずらしくありません。業務プロセスそのものを見直す、いわゆるBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の視点が不可欠です。「このステップは省略できないか」「この確認作業は人が行う必要はあるのか」と検討した上で、初めて「どのツールを導入すべきか」という判断に至ります。

2026年度診療報酬改定では、生成AIや各種デジタルツールの導入が施設基準の一部として位置づけられました。そのため、「基準を満たすために何か導入しなければ」「他院が使っているから自院でも」といった“プロダクト先行”の発想に陥りがちです。しかし、順番を間違えてはいけません。まずは業務を整理し、改善すべきポイントを明確にした上で適切なツールを選択することが重要です。そうでなければ、現場の負担は増し、投資対効果も得にくくなるでしょう。

藤田哲朗(医療法人社団藤聖会理事、富山西総合病院事務長、医療経営士1級)[医療DX][診療報酬改定

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